謙虚なスーパースター像 – 視点
「侍ジャパン」の余韻は、いまださめない。
WBC14年ぶりの優勝で世界一を奪還したドラマは、老若男女を問わず多くの人々の心を揺り動かした。マスコミは、そのサイドストーリーをしきりに掘り起こす。栗山英樹監督の気配りと信頼による組織マネジメント、ダルビッシュ有投手のチームリーダーとしての献身、日系2世ラーズ・ヌートバー外野手の家族愛など、話題に事欠かない。
なかでも目を引いたのは、大会MVPに選ばれた大谷翔平選手の人間性に対する高い評価だ。特に、米国の複数メディアが「謙虚」という言葉を用いて、スーパースターの人となりにふれたことは興味深い。
この点にいち早く注目したのが、NHK教育テレビ「ハーバード白熱教室」でおなじみの、世界的な政治哲学者のマイケル・サンデル氏だ。
氏は、新型コロナのパンデミックで露わになった世界の分断は、行き過ぎた「能力主義」によるものと喝破した。エリートは、自らの才能や努力だけでなく、時代性や環境などの「運」や、目に見えない多くの支えによって成功へもたらされたことを自覚し、決して謙虚さを忘れてはいけない。そうした謙虚さが、コロナ後の新たな世界を開く希望になる。その好例として、自ら大ファンと公言する大谷選手の名前を挙げていた。
謙虚さが成長の原動力になる、と分析する研究論文もある(「謙虚に関するポジティブ心理学的研究の概観」2015)。これによると、謙虚なマインドを持つことで、自分の弱みや強みを客観的に認識できるし、周囲との連携や調和にも役立つ。さらに、謙虚な人は感謝の思いが強く、他者からの評価や信頼感が高くなりやすい。ゆえに、人間的成長が促されるという。頂点を極めても驕らない、大谷選手のイメージに重なる。
「謙虚」から想起する、お道の言葉は「慎み」であろうか。謙虚という倫理的社会通念を内包しつつ、親神様に生かされている感謝の心に基づく、陽気ぐらしに向かう確かな生き方の一つといえよう。
「慎みが理や、慎みが道や。慎みが世界第一の理、慎みが往還や程に」(おさしづ明治25年1月14日)
謙虚なスーパースター像が今ひときわ輝くように、慎みの生きざまは将来、世界への往還道に通じていく。
(松本)