人生後半の生き方 – 人と関わる知恵
金山元春
天理大学教授・本部直属淀分教会淀高知布教所長
40代から50代にかけては自分の体力の衰えや能力の限界を自覚し、十分に働く時間や家族と共に過ごす時間には限りがあることを実感するようになり、残りの人生の過ごし方について考える時間が増えていきます。前回のエッセーでは、そうして自分自身を見つめ直すことで人は成熟していくと説明しました。
一方で、この年代は「私の人生はこれでよかったのか。今とは違う生き方もあったのでは……」と心が揺れやすく、うつや不安などの心理的問題が生じたり、家族関係が不安定になったりすることもあります。心理学ではこれを“中年期危機”と呼んでいます。
それでは、これを転機として残りの人生を実りあるものにするには、どうすればいいのでしょうか。心理学者の諸富祥彦博士によれば、そのために必要なのは“人生の問い”を転換することです。
人生前半の課題は自立することですから、若いころであれば「私がしたいことは何だろうか」「私にとって必要なものは何だろうか」と問いながら生きるのは自然なことです。ところが、人生の折り返し地点を過ぎても、自分がしたいことばかりに関心を持ち続けていては、いつまでたっても心は満たされず、「もっと私にふさわしい人生があるのではないか」と不全感を抱えながら生きることになります。
人生後半には、心の向きを「私がこの人生に求めるもの」から「この人生が私に求めるもの」へと転換し、「残りの人生において私がなすべきことは何だろうか」と“人生の使命”を問いながら生きることが求められるのです。
「なすべきこと」といっても大げさに考える必要はありません。諸富博士が言うように、私たちが充実した日々を送ることができていると実感するときには、それが仕事を通してであれ、趣味や家族とのふれ合いを通してであれ、「何かの役に立てている」という感覚を持つと思います。まずは身近な他者に対して、自分ができることはないかと関心を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。