天理スポーツ指導者講習会
スポーツ心理学から見る“勝ち続ける組織づくり”
親里管内学校のスポーツ関係者などを対象とする「天理スポーツ指導者講習会」(主催=学校法人天理大学天理スポーツ強化推進室)が3月18日、天理大ふるさと会館で開催され、80人が受講した。16回目となる今回は、スポーツ心理学の日本における権威で、(株)Tsutomu FUSE,PhD Sport Psychology Services代表取締役の布施努氏が「勝ち続ける組織のつくり方」と題して講演した。
この講習会は、管内のスポーツ指導者たちが、選手の強化育成や各種競技の内容充実を図ることを目的に毎年開かれている。
講演に立った布施氏は、冒頭、自身がメンタルコーチとしてさまざまなチームと関わってきた経歴を紹介。その経験を踏まえ、スポーツチームや会社でも目標を明確に定めて努力することで、いくつかのスキルが自然と身につくという「目標設定」の基本的考え方を説明した。
そのうえで、自身がコーチを務めた桐蔭学園高校ラグビー部が天理高校と対戦したときの例を挙げて説明。「パスが上手な相手に対して、どのような展開に持っていくべきか目標設定をすると、選手たちの状況把握能力が身につく」「選手たちに能力がついてくると、今度は相互にコミュニケーションを図るようになる」などの具体例を挙げ、目標設定の重要性を強調した。
続いて、現代スポーツのコーチングの分野では、スポーツ心理学の視点からのスキルの可視化が重要視されていると指摘。「スキルを細かく可視化することで、より効果的なトレーニングが可能になり、さらに、身につくスキルも把握できるようになる」と語った。
理想とする役割を演じる
この後、心理学的知見を交えながら、人が成長する際の性格の成熟過程に言及。人は成長する過程において、これまで知り得なかった自身の性格に気づくときこそ、言動や感情のコントロールができるように性格が成熟していくと語った。
そのうえで、キャプテンなどチーム内での個々の役割は、各チームのカラーによって性格が異なると指摘。自身がトップアスリートを調査した経験をもとに、“素の性格”で競技している人が少ないという事実を踏まえ、「映画でたとえるなら、チームの監督は映画監督で、選手は役者。日常生活から、それぞれの役割をどのように演じるかがチームづくりに大きく関わってくる」と語った。
最後に、指導者は次世代の指導者や社会へ貢献する人材輩出のため、学生がスポーツを通して得られる経験の質を高めることが大切だとして、「選手のパフォーマンスがうまくいっていないときこそ、試行錯誤しながらチャレンジできる“場づくり”に取り組んでもらいたい。そして、異なる分野の指導者同士がコミュニケーションを取り、お互いに学び合うことができれば」と話を結んだ。
プロフィール – 布施努氏
1963年東京都生まれ。早稲田実業高校、慶應義塾大学では野球部に所属し、高校時代は甲子園で準優勝、大学時代は全国優勝を経験した。2000年、かねて関心があったチームづくりについて学ぶため、14年間勤めた職場を退職して渡米。ウエスタン・イリノイ大学を修了した後、スポーツ心理学の最高峰であるノースカロライナ大学グリーンズボロ校大学院で博士号を取得した。帰国後は、最先端のスポーツ科学をベースに、フィールドでメンタルトレーニングを共に行える数少ないスポーツ・サイコロジストとして活躍。これまでに日本代表、東京ガス、トヨタ自動車、桐蔭学園などのチームでメンタル指導を行い、メダル獲得や全国優勝などに導いている。