「母国の未来のために――」木を植え人を育てた32年 – ヒューマンスペシャル
2023・7/26号を見る
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ネパールで女性初の「外国人叙勲」受章
アミーラ・ダリさん
70歳・谿郷分教会教人
南アジアのネパールで長年、緑化、農村部の地域開発、女子教育に取り組んできたアミーラ・ダリさん(70歳・谿郷分教会教人)は、日本とネパールの友好親善および相互理解の促進に寄与したことが称えられ、「令和5年春の外国人叙勲」の「旭日双光章」を受章した。お道の精神を胸に、自国の発展に半生を捧げたアミーラさんの取り組みを紹介する。
首都カトマンズで生まれ育った。2歳ごろにはネパール語をほとんど読めたというアミーラさんは、大の読書好きで、「好きなジャンルはノンフィクション」。政治や経済学などの専門書も読み込んだ。
飛び級に次ぐ飛び級で、12歳で高校卒業。国立トリブバン大学で日本語を学んだ際に、講師を務めていた大向良治・ネパール連絡所長(当時)と出会った。
同大学院で経済学の修士課程を了えたのち、大向所長と松本滋・谿郷分教会長(当時)の世話取りで天理大学選科日本語科(当時)へ。親里で学ぶ間、「本部夕づとめへの参拝は欠かさなかった」。
その後は修養科と教会長資格検定講習会を経て、谿郷分教会に住み込みながら上智大学大学院で国際経済学を学んだ。
日本滞在中の思い出について、「修養生活では、身上・事情を抱える仲間がご守護を頂く姿を見て、お道の教えの素晴らしさを実感した。教会生活は、神殿掃除、朝づとめから始まる多忙な日々だったが、とても楽しかった。おぢばと教会でふれたお道の信仰が、自分の信念として心に治まっていった」と振り返る。
恩師と仰ぐ故・松本会長からは、毎日お道の話を聞き、お諭しを受けた。「先生の神殿講話が楽しみだった」と懐かしがるとともに、「お道の教えをベースに、日本とネパールの関係の土台になってほしい。限られた分野だけでなく、もっと幅広い世界で活躍してほしい。あなたは宝だ」との言葉を胸に、母国でさまざまな活動に取り組んでいる。
「この国の役に立ちたい」植樹活動と教育整備に着手
大学院修了後、AOTS(海外技術協力・持続可能なパートナーシップ協会)の研修生として、都内の企業でソフトウェアの開発技術を習得。帰国後は日本の貿易会社に勤務し、現地マネージャーとして日本のODA(政府開発援助)や企業のプロジェクトの起案、ネパールの関係省庁への働きかけ要望書の作成と日本政府への提出など多数の事業に携わった。
当時、ネパールは国連が規定する“最貧国”の一つに数えられ、都市部と農村部の貧富の差が大きな課題になっていた。また、家庭で使用される燃料の大部分は薪で、無計画な森林伐採による洪水発生の危険性も指摘されていた。
結婚・出産を経て、経済的事情などで親元から離れた子供を預かる里親活動をしていたアミーラさん。森林破壊のニュースを耳にしたときに思い出したのは、日本で見た豊かな森や川だった。
「この国の役に立てないか――。とにかく、1本ずつでも木を植えよう!」と、1991年、NGO「ラブ・グリーン・ネパール」を設立し、植樹活動を始めた。“草の根”の取り組みは徐々に広がり、大規模な植林事業、薪の代替燃料となるバイオガスプラントの設置、有機農法の導入など多岐にわたる分野へ発展した。
そんななか、ネパールでは、植樹の必要性や、過度な伐採の危険性を説明しても理解されないことが多いと痛感したアミーラさんは、「まず、この国の教育を改善して、人々の意識を変えることから始めよう」と思い立つ。
こうして農村部の教育整備にも着手。女性に教育は必要ないという当地の認識を変えるべく、女子教育のための奨学基金を設立し、独自の教育プログラムを立ち上げ、その環境づくりにも力を入れた。
さらに、卒業後の経済的自立を支援するため、職業訓練所の運営、日本への研修派遣の手引きなどにも尽力してきた。
意識と環境の変化を感じつつ「未来つくる人を育てたい」
活動開始から32年が過ぎるなか、アミーラさんが支援した女子たちが結婚し、親世代になった。現在では、ネパールの人々の意識は変化し、男女平等に教育を受けさせる家庭が増えるなど、「環境は大きく変わった」という。
アミーラさんが新改築に携わった学校は50を超え、1万人以上の卒業生がITや教育などの分野で活躍。また、植樹した苗木は110万本に上り、土色がむき出しになった山に、いま青々と樹木が広がる。
国内外を取り巻く環境の変化を踏まえ、現在、取り組もうと考えているのは「人材育成」だ。ネパールの若者は海外へ出稼ぎに行きたがり、自国に居つかない現状がある。アミーラさんは「それは良いけれど……」と前置きしたうえで、「仕事や学校で必要なスキルをしっかり身に付けてから、『〇〇をするぞ』と明確な展望をもって外へ出てほしい。他国で培ったスキルをネパールの国づくりに生かそうとする人材を育てたい」と語る。
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このたび、「令和5年春の外国人叙勲」の「旭日双光章」を受章した。これは、AOTSの元研修生による非政府・非営利団体「ネパールAOTS同窓会」の会長(現・顧問)として、特に経済やビジネス関係において日本とネパールの友好関係や相互理解の促進に貢献したことを評価されたもの。さらに、ネパール人への支援活動はもちろん、ネパール人女性の日本への研修派遣や、日本の大学からのインターンの受け入れなど、多岐にわたって日本とネパールの人的交流を促したことも評価されている。
8月中旬、現地日本国大使館で伝達式が行われる。ネパール人ようぼくの受章は、ラム・クリシュナ・バルマさん以来、二人目。女性としては初(編集部調べ)。
アミーラさんは「受章のお話を聞いて最初に思ったのは、恩師の大向先生と松本先生に喜んでもらえるということ。私一人の力ではなく、多くの人が協力してくださったおかげで今がある。木も人も、育つ・育てるには気力と忍耐が必要。かつてのネパールの女性を取り巻く環境もそうだった。どんな分野でもいいので、『ネパールのために』という思いで、私に続いてくれる人を育てられたらうれしい」と話した。
(文=内田和歩)
アミーラさんの「ラブ・グリーン・ネパール」での活動を紹介した記事が、下記URLから読めます。
https://doyusha.jp/jiho-plus/pdf/20230726_human-sp.pdf