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諦めなければなんとかなる!? – わたしのクローバー


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三濱かずゑ(臨床心理士・天理ファミリーネットワーク幹事)
1975年生まれ

「いつか絶対、痛い目に遭うからな」。結婚する前から夫に言われ続けてきた言葉です。その「いつか」が、ついにやって来ました。

親切な方との出会い

長女の入学式で九州へ行った帰り道、駅に向かって暗がりを歩いていると、後ろで道を尋ねる男性の声が。見れば、スーツ姿で大きな鞄を持った、いかにも、といった格好です。「入学式ですか?」と声をかけると、さわやかな笑顔が返ってきました。

「長い式でしたね」と疲れ果てた私の言葉に、「そうですね。でも今日が終わると、寂しさが募ってくるんでしょうね」と、しみじみ言われます。大切に育てられてきたであろう息子さんは、偶然にも娘と同じ学部でした。

新幹線で岡山へ帰るそのお父さまと、飛行機で帰る予定の私が、駅のベンチで話していると、「本日、強風のため電車が15分遅れます。ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」と突然のアナウンス。「えっ?嘘でしょ!」。頭が真っ白になりました。

実は出発前、夫が電車の乗換案内を調べてくれていました。けれども、その電車では空港で1時間も待つことになる。時間の無駄だと感じた私は、2本あとの電車に乗ることにしました。それでも搭乗手続き締め切りの10分前には空港に到着するはずでした。

「電車が遅れて飛行機に間に合わないかもしれない……」。平静を装いながら家へ電話する私に、隣でスマホを見ていたお父さまが、「新大阪まで行けたら、なんとかなりますか?」と尋ねられます。いまから乗れる新幹線がないか、調べてくださっていたのです。

この緊急事態に、なんて親切な方だろう。思いやりの心あふれるご家庭の様子が、目に浮かぶようです。明日から娘と同じ学部で学ぶ息子さんも、きっと優しくて素敵な学生に違いない。わが子もまだ知らない同級生の姿を想像しながら、丁重にお礼を言って別れました。

正反対の性格だから

アナウンス通り15分遅れでやって来た電車の中で、冒頭の夫の言葉を思い出しました。飛行機に乗れなかったら、なんと言われるだろう。

「何が起こるか分からないから」と、夫はいつも早めに行動する性格。一方の私は、「何か起こってから、どう対応するかが大切だ」と考える、行き当たりばったりの性格。正反対の性格だからこそ、互いに足りない部分を補い合い、成長し合うのが理想の夫婦なのでしょう。

昨年、体調を崩して以来、「体と心に余裕を持つ」を心がけてきましたが、長年培ってきた性分は、そう簡単には変わりません。今度ばかりは、時間にルーズな自分自身を大いに反省しました。

電車を降りると猛ダッシュでホームを走り、遅延証明書をもらって空港へ。カウンターへ駆け込み、必死に事情を訴えて、なんとか飛行機に乗り込むことができました。

この期に及んでもなお、私が得た一番の教訓は、「最後まで諦めなければ、なんとかなる」でした。夫の苦言は、これからも続きそうです。

イラスト・ふじたゆい