時代を駆ける『源氏物語』- 視点
2023・12/6号を見る
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2023年10月18日から天理図書館が開催していた「源氏物語展――珠玉の三十三選」(天理時報11月1日号既報)が11月27日をもって終了した。期間中の来館者は4千人を超え、こうした展覧会では過去最高の盛況を博した。
今回は天理図書館の所蔵品の中から、今年、重要文化財に指定された「源氏物語国冬本」(鎌倉後期)をはじめ、写本や絵画資料、藤原定家の自筆注釈書など、重文3点を含む選りすぐりの33点が公開された。
平安時代中期に成立した『源氏物語』は、これまで谷崎潤一郎など名だたる作家が現代語訳を試み、世界30カ国語に翻訳されている。
また近年では、マンガ化した長編『あさきゆめみし』(大和和紀作)も登場し、アニメでも人気の素材となっている。そして、来年1月に始まるNHKの大河ドラマは『光る君へ』。この物語を著した紫式部が主人公で、早くも期待が高まっている。
総文字数で約100万字のボリュームがあり、登場人物は500人を数える。読み進めるだけでも大仕事である。しかしながら、執筆から1千年を経て、なぜこのように親しまれているのか。
古来『源氏物語』は、和歌を詠むうえでの下地となる必須の知識だった。その後、平安末期から鎌倉期に勃興した連歌は、室町期から戦国期にかけて公家や武士ばかりでなく庶民の間にも流行し、各地で盛んに連歌会が行われた。それは文学の場であるとともに、たとえば武将同士の情報交換のツールともなった。そして連歌を詠むときも、この物語の各場面は欠くべからざる共有知識であった。そのため長期にわたり、さまざまな注釈を試みたのである。
『源氏物語』は、それまでに存在した歴史書や記録の類いではなく、世界初の創作文学と言えるのではないか。人間の深い苦悩や喜びを克明に活写する。また、王朝の美意識を背景として、男女の愛憎をリアルに表現することで、読者に憧れや共感を呼び起こす。そこに、現代人を惹きつける大きな魅力があると思う。
時代を駆け抜けた『源氏物語』に、さまざまなメディアを活用し、今あらためてふれてみたい。
(安藤)