道徳と経済は表裏一体 – 日本史コンシェルジュ
2023・12/6号を見る
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江戸後期、600を超える村々を経済的疲弊から救ったといわれる、二宮金次郎。今回は、これまでふれてこなかった金次郎流の増収について、お伝えしますね。
金次郎は財政再建を託された藩の収入を増やすために、ファンドのようなものを作り、洪水で田畑を流された農民、商売やものづくりの元手を必要としている商人や職人、そして困窮している武士などにお金を貸し出しました。このとき金次郎が担保に取ったのは、相手の人間性だといわれています。周囲の人々に徹底的にインタビューし、働き者で地域のために尽くしてきた人にお金を貸したのだそうです。
金次郎のファンドは利子を取らないので、仮に10両借りた人がいたとして、1年に2両ずつ返済すれば5年で返せます。返し終わった人に、金次郎はある提案をしました。「あなたはこの5年間、2両を無いものと思い、やりくりしてきた。それを、あと1年だけ続けてはどうだろうか? その2両を、次の人へ送るために……」
かつての日本人は、「お互いさま」「お蔭さま」という思いが強く、多くの人が金次郎に賛同し、自分の受けた恩をほかの人に送っていったのです。こうしてファンドの資金は増え、その恩恵を受けて暮らしを立て直した人々の働きにより、藩の収入も増えていきました。金次郎の考える財政再建の秘策は、道徳と経済の見事な融合にあったのですね。
金次郎の教えをひと言に集約すると、この言葉になるかもしれません。
「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」
私は最初、この言葉を「道徳と経済の両方が大事。だから両者のバランスをとることが重要だ」という意味に受け取っていました。
ところが、金次郎の生涯を紐解いていくうちに、「道徳と経済は一元のものである」という考えに至りました。言い換えれば「経済を通して道徳を磨き上げる」または「道徳を磨く場が経済である」と表現することができます。道徳と経済は両立させるものではなく、「表裏一体である」ということです。
利益だけを追求する風潮がまだまだ根強い現代社会にあって、金次郎の経営のあり方を難しいと感じる人は少なくないでしょう。確かに簡単ではありませんよね。でも、永続性に長け、最後に残るのは、この日本型の経営のあり方だと私は確信しています。
白駒妃登美