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三濱かずゑ(臨床心理士・天理ファミリーネットワーク幹事)
1975年生まれ

桜の開花とともに新しい暮らしが始まる4月。望み通りに道を歩み始めた人も、予定外の道に戸惑い、悩んでいる人もいるでしょう。

恩師のひと言に救われ

いまから30年前の春。英語が好きだった私は、皇太子妃・雅子さまに憧れ、国際関係を学べる地元の大学を受験しましたが不合格。天理大学へ進学して専攻したのは、当時にわかに注目を浴びだした心理学でした。

受験に失敗した挫折感に加えて、青年期特有の悩み。なかでも信仰者としてのあるべき姿と自分とのギャップに苦しみ、それまで経験したことのない感情の渦のなかで、身動きが取れなくなっていました。

大学には学生相談室があり、天理教の教会で生まれ育った教授に、思いきって相談に伺いました。先生は黙って話を聞いてくださり、穏やかな表情でおっしゃいました。「神様は、そんなに了見狭くないと思うけどなあ」

絡まっていた悩みの糸がすっと解けていくような、不思議な体験でした。私は次第に同級生たちに心を開き、悩みを語り合うようになりました。あとで知ったことですが、彼らも学生時代に、私と同じ言葉を先生から掛けてもらったそうです。

先生は6年前に急逝されましたが、あのときの言葉は、同じように悩みを抱える方と向き合う私の、そして、たくさんの卒業生の心の中で、この先も生き続けていくことでしょう。

無駄なことは何一つない

卒業後、実務経験を積もうと勤めた事務所。初日に先輩から教わったのが、50人ほどの職員のお茶汲みでした。当時は女性だけに「お茶当番」という業務がありました。スマホも写メもなかった時代です。メモ帳にイラストを描き、休憩時間に必死で覚えました。

イラスト・ふじたゆい

同級生たちが心理職として経験を積んでいくなか、お茶汲みと事務仕事に追われる毎日。たまりかねたある日、父に「こんなことをするために勉強してきたんじゃないのに……」と、こぼしました。すると父は、目尻に皺を浮かべて言いました。

「人さまにおいしいお茶を飲んでもらいたいという心づかいもできずに、人の心を扱う仕事などできるものか」

返す言葉も見つかりませんでした。

それからというもの、来客接待や電話応対、資料作成など、与えられた仕事は何でも「相手の立場に立って考える訓練」と自分に言い聞かせ、心を込めて、丁寧に取り組みました。そうしている間に、専門を生かせる仕事も少しずつ増えていきました。

結婚を機に退職した事務所には、いまでは立派なティーサーバーが設置され、一緒にお茶汲みをした先輩は管理職として活躍されています。「良い時代になった」と羨む半面、あのとき培ったマインドやスキルが、いまの私を支えているという自負もあります。

好きなことだけして生きるのが正解、みたいな世の中ですが、この年になって、ようやく思えることがあります。

「人生には無駄なことなど何一つない。今日の出会いや経験が、未来の自分につながっている」

この思いを胸に、これからも毎日を大切に生きていこうと思います。


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