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いま注目の本 『馬をたすけ 人をたすけ 名伯楽・角居勝彦がめざす「陽気ぐらし」』片山恭一著


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被災した奥能登の地で復興への祈りを込めて

JRA(日本中央競馬会)で数々の名馬を育て上げ、“競馬界のレジェンド”と称された元調教師の角居勝彦さん。2021年に勇退し、現在は奥能登の輪島市で、祖母が開いた天理教大輪布教所の布教師として人々に寄り添いながら、珠洲市を拠点に、引退競走馬の支援やホースセラピーの普及促進に努めています。

そんな角居さんの活動を、作家・片山恭一さんが精力的に取材し、書き下ろした渾身のドキュメンタリー『馬をたすけ 人をたすけ』(道友社刊)が、このほど出版されました。

片山さんが角居さんの取材を始めたのは昨年3月。天理大学の馬術部でホースセラピーの準備をしているところでした。

角居さん(左)と片山さん

ここで片山さんは、不登校の姉妹が自分から進んで馬の世話をしたり、支援学校の子供たちが楽しそうに馬と触れ合ったりする姿を目にします。

以来、取材を重ねるたびに、なんとも言えない馬たちの魅力に心を奪われ、角居さんの人間的な魅力にも引き寄せられていきました。

珠洲市の牧場を訪れたときの様子を次のように記しています。

「ここで彼は、引退競走馬たちのセカンドキャリア、サードキャリアを創出するとともに、馬たちの終の棲家をつくるという取り組みをしている」

「3歳の夏までに1勝できなければ残れない中央競馬という世界。そこでレースをする馬たちも、成績によって命の長さが決められてしまう。熾烈な世界を生き抜いてきた彼らが、いま本来の馬の姿に戻って憩っている。……そうした馬たちを目にすることは、思わず知らず深い感銘を覚える体験なのかもしれない。

一人でも多くの人に、ここへ来て彼らを見てほしいと思う。その光景を心に留めておくことは、大切な宝物を手にするようなものだ。慌ただしい都会の暮らしにあっても、ときどき彼らのことを想い起こす。たとえ会いに行けなくても、奥能登の地には彼らがいて、十年一日のごとく草を食んでいる。そんなことを想うだけで、暮らしが潤ってくるに違いない」

この本の出版が目前に迫っていた今年の元日、角居さんの活動拠点である、能登地方を震源とする大規模地震が起こりました。

片山さんは、地震発生直後も、いつもと変わらず餌を食べていたという、たくましくも優しい馬たちが、震災からの復興のシンボルとなることを願いながら、こう「あとがき」を結んでいます。

「今回の地震では、あらためて角居さんのゆるぎなさ、前向きな姿勢に心打たれている。この逆境にあっても、彼の未来を構想する力は少しも鈍ることなく、のびやかで明るい。それは馬たちのしたたかなたたずまいと、どこか響き合っている気がする。

引退競走馬を救おうとしてはじまった彼の活動は、『かわいそうな』馬たちによって人が救われるという、新しい局面を見せはじめている。名伯楽と馬、それを取り巻く人々の活動は、わたしたちの社会を照らすたしかな光となっていくに違いない」


定価 1,760円(税込)
四六判並製/208ページ

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