役者という「語り部」として日本人の心を未来へ伝える – 梅沢富美男 俳優
半世紀以上にわたって大衆演劇の世界を牽引し続ける俳優の梅沢富美男さん。近年はバラエティー番組などにも多く出演し、俳人・夏井いつきさんとの互いに歯に衣着せぬやりとりも毎回人気を集めています。
「すきっとした気分で暮らすために」をコンセプトに、さまざまな分野の第一線で活躍する人々の生き方・考え方を紹介する雑誌『すきっと』の最新号から、そんな梅沢さんへのインタビューの一部を紹介します。
すきっと Vol.36 humanity(人間味)
両親がやっていた一座で初舞台を踏んだのは一歳七カ月なんですよ。本格的に役者になろうと思ったのは十四歳のころで、それから五十六年間、演劇に携わってきました。
親父の時代の芝居は、人間のあり方や義理人情、上下の隔てといった道徳観が、台詞から感じられることが多くありました。思えば、どこか俳句の感性にも通じるものがあったように思いますね。
舞台は夢の世界ですから見終わった後の余韻まで含めて、醍醐味といえるものがありました。最近、そうしたものがなくなってきて、「きれいな日本語がいっぱいあるのに、日本人はどうして使わないんだろう。どうして自分の国の言葉をもっと大事にしないんだろう」と感じていました。
バラエティー番組『プレバト!!』がきっかけで、初めて俳句を知りました。それから歳時記を買い、いろいろな人の俳句にもふれるなかで、ふと「これは親父の時代のお芝居だ」と感じました。親父の時代の芝居は、多くの台詞が「なにがなにして、なんとやら」のリズムなんですよ。つまり七五調。やはりこのリズムは、日本人の耳にスッと入ってくる。演歌のヒット曲にも多いでしょう?
最近は若い人でも俳句をつくる人が増えてきて、ありがたいことに『プレバト!!』の視聴率も上がっています。僕はそれはきっと、俳句や演歌を理解する〝言葉の根っこ〞が日本人にはあるからじゃないかと思いますね。
演劇の主人公は「強きをくじき、弱きを守る」。幼いころから染みついているその精神を、舞台の外でも体現するつもりで今日まできました。だから、自分の舞台には真実味があると自負しています。そうした意味で、貧乏をさせてもらったことにも感謝しているし、舞台に立たせてもらってきたから、いまがあるのだと感じています。
ある意味で役者は「語り部」だと思います。日本人の心を未来へ伝える。そんな芝居をしていこうと思っています。
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