刀工尻懸則長と名刀肘切丸 – 山の辺の道 心の景
写真は、雨に煙る2月の山の辺の道。蝋梅の後方に、靄のかかった龍王山が見える。
昔、この近くに尻懸則長という、評判の刀鍛冶がいた。あるとき、龍王山の麓にある長岳寺の僧が則長に刀を注文した。僧は出来上がりを指折り数えて待っていたが、我慢できず、作業の様子をのぞきに行った。
則長は、刀を鍛えている最中だった。見ると、もみ殻を燃やした火を使っている。「あれでは火力が弱くて、いい刀ができるわけがない」。僧は落胆した。
数日後、則長が刀を手に寺へやって来たが、僧は中身も見ずに突き返した。怒った則長は刀を抜くと、寺の門の肘木を見事に切ってしまった。以来、この刀を肘切丸、門を肘切門と呼ぶようになったという――。
この尻懸則長は実在の人物で「大和伝」という作風の刀鍛冶の一人。現存する則長の刀は名品として珍重されている。ちなみに、肘切丸は所在不明とのことだ。
(J)
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