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世界はみんなつながっている物を大切にする南の島の夫婦 – 家族のハーモニー


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カリブ海の花嫁

昨年の春、窓際の花壇に植えた風船かずらの種が、夏には窓を覆う“グリーンカーテン”となり、エコの役を担った。そこに風船のような実がたくさんつき、緑の葉を通す柔らかい日差しや風とともに、心を和ませてくれた。

茶色く染まった実から種を取り出していた初秋のころ、「先生、子供が誕生しました」と、嬉しい知らせが届いた。

メールは、遥か遠くカリブ海のフランス海外県マルティニーク島に住む、マンガタル春菜さんからだった。

春菜さんは、5年前に私が天理教の修養科で講師を務めた際に、クラスにいた女性の一人だ。当時、すでに日系フランス人の彼との結婚が決まっており、修養科を了えて彼の元へ嫁いだ。

その後、エメラルドグリーンの海をバックにした彼とのツーショットや、和服姿の結婚式の写真などをメールで送ってくれている。彼女の笑顔は、すっかり現地に溶け込んだ雰囲気を醸し出している。

日本から遠く離れた所へ嫁ぐには、相当な覚悟がいることだろう。しかし、彼の誠実さと優しさがそれを上回り、冬が苦手な彼女は、「常夏の島で彼と一緒に過ごすことをイメージできた」と話した。

「両親からも、あなたが選んだ人だから大丈夫と祝福され、胸が締めつけられた」と言葉が詰まった。そして「彼は物を大切にする人なんです」と、彼に惹かれたもう一つの理由も教えてくれた。

愛情が何より大切

春菜さんは、修養科中はペットボトルの飲料を使わず、いつもリュックに水筒をしのばせていた。彼が環境問題に対する意識が高く、その影響を受けたそうだ。「ゴミを減らす生活」をテーマにした本なども私に紹介してくれた。日本のお土産を用意するときは、過剰包装にもったいなさを感じると言い、誕生した赤ちゃんには布おむつを使っていると聞いて、頭の下がる思いがした。

最近のメールには、「砂の霧」と呼ばれるサハラ砂漠からの砂塵が、これまでになく飛んでくるという話題もある。砂は大気中の汚染物質をくっ付けて飛来するので、目や鼻や喉がかゆくなったり、頭痛に悩んだりする日もあるとのこと。

また、アマゾンの森林伐採や畜産物の成長ホルモンが間接的に海洋汚染につながり、増殖する海藻の悪臭に悩む日もあるらしい。添えられた写真は、その深刻さを物語っており、心が痛んだ。若い夫婦が、小さな島に忍び寄る環境破壊を体感しながら、物を大切にし、ゴミを減らす努力をしていることに尊さを感じる。

春菜さんは「世界はみんなつながっているから、自分も知らないところで他の国の誰かに迷惑をかけているかもしれない。この島に来てから、大好きな海や美しい自然を子供の代に残してあげたいと思うようになったんです」と話す。

春菜さんとの電話やメールのやりとりには、地球儀が欠かせない。クルクルと回しながら、世界はみんなつながっていることに、あらためて感じ入り、私自身の生き方を自らに問うこともある。日ごろ子供たちと一緒に約束している、物を大切にすることや、早朝の教会周りの掃除にも、もっと「世界」を意識したいと思う。

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、日本への里帰りもままならず、寂しいかと思いきや、春菜さんは味噌や和菓子なども手作りして家族に喜ばれていると、その声はとても明るい。環境問題も感染症問題も、地球規模の対策が急がれるが、個々の努力と工夫、そして愛情こそが何よりも大切だと、春菜さんとの会話から学んだ。

風船かずらは、カリブ海が眼下に広がる瀟洒な家にも、きっと似合うだろう。黒い球状に白いハートの形が浮かぶ愛らしい風船かずらの種を両手で包みながら、遠い南の島に思いを馳せて幸せを祈った。


白熊繁一(天理教中千住分教会長)
1957年生まれ


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