「おいしい」と言ってくれるように – 陽のあたる方へ6
2024・10/16号を見る
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読者の皆さまの中には、子供の偏食、好き嫌いに悩む方が少なくないのではないでしょうか。私どもの「こども食堂」でも、毎回150食ほどの食事を提供していますが、いつも頭を抱えるのは献立です。
献立は、地域の市場や農家から寄付していただいた野菜を見て考えます。旬を迎えると、子供たちが苦味を感じやすい野菜、ピーマンやほうれん草、ズッキーニ、菜の花、サラダ菜、ゴーヤなどを大量に寄付していただきますが、どんな料理にしようかと頭をひねります。
特によく登場するのがピーマンです。ある研究によると、ピーマンの苦みは、クエルシトリンという渋味成分とピラジンという青臭さを感じさせる物質からくるもので、クエルシトリンは便秘改善、抗炎症作用、ピラジンは血流改善などの効果があるとのこと。まさに「良薬は口に苦し」です。
苦味とは、人間が味わうことのできる5種類の基本的な味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)の一つで、本来は毒のあるものを示す味として認識され、甘味や塩味と比べて約1千倍も感じやすいそうです。そもそも味覚は、舌や上あご、喉の表面にある味蕾で感じるもので、赤ちゃんのときにはすでにこの細胞があります。最初は甘味やうま味を好み、苦味を嫌いますが、さまざまなものを食べることで味覚が変化し、やがて苦味を「おいしい」と感じられるようになっていきます。
「栄養になるよ」と子供たちに言ったところで、なかなか食べようとしませんが、さまざまに工夫を重ねることで、「おいしい!」と言って食べる子もいます。
教祖は「食べる時には、おいしい、おいしいと言うてやっておくれ。人間に、おいしいと言うて食べてもろうたら、喜ばれた理で、今度は出世して、生まれ替わる度毎に、人間の方へ近うなって来るのやで」(『稿本天理教教祖伝逸話篇』132「おいしいと言うて」)と、「おいしい」と言葉にすることの大切さをお教えくださっています。
私たちが口にする植物や動物はすべて命あるものです。子供たちが動植物への慈しみの心を持ち、何を食べても喜んで「おいしい」と言ってくれるように、「こども食堂」の挑戦は続きます。
乾 直樹(京都大学大学院特定教授・大阪分教会正純布教所長後継者)