近畿衰亡論 – 世相の奥
2024・12/11号を見る
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私は京都府にすんでいる。近畿地方の住民である。しゃべる時には、この地方ならではの訛りが、口をついてでる。
しかし、自分の話しっぷりを近畿訛りという言葉では、よんでこなかった。もっぱら、関西訛り、あるいは関西弁という呼称をつかっている。また、近畿人という自覚もない。自分のことは関西人だと思っている。私だけにかぎらない。近畿地方の人びとは、たいてい同じような自己認識をいだいている。
九州地方の住民は、いっぱんに九州訛りのある九州人だとみなされる。東北地方でくらしている人たちも、東北弁の東北人だと了解されていよう。だが、近畿地方に関しては、近畿弁の近畿人だと、ふつうよばれない。通称は、どうしても関西弁の関西人になる。
近畿の「畿」は都、もしくは王宮をさす漢字である。だから、近畿は都や王宮の近く、現代的に言いかえれば首都圏を意味する。都の座をうばいとった東京の中央政府が、旧都とその周辺にあてがった空疎な美称である。実権を奪取した側が、された側へ気をつかった命名にほかならない。せめて、名前だけは旧都の側へ、首都らしいそれをのこしてやろうというように。
とはいえ、近畿=首都圏という言い方は、生活実感になじまない。それで、関西、つまり関所の西側というよび名が普及するようになった。関西文化、関西経済、関西料理……。
もちろん、近畿の名を冠した組織はある。たとえば、近畿大学や近畿日本鉄道などである。あと、行政機構も、たいてい近畿を名のっている。近畿財務局、近畿農政局というように。正式名称は、あくまでも近畿である。関西は俗称でしかない。
さて、近畿はローマ字でKINKIと書く。これと同じ発音になるKINKYという言葉が、英語にある。変態、いやど変態というほどの含みになる。あまりいい言葉ではない。
近年、聞き違いをおそれ、近畿を標榜する組織が英語の名前をかえだした。近畿日本鉄道はキンテツ・レイルウェイ、近畿大学はキンダイ・ユニバーシティに。行政にも英語の書類で、関西になりすますところがある。近畿経済産業局は、カンサイ・ビューロー・オブ・エコノミー、トレード・アンド・インダストリーになった。今、グローバリズムは、キンキをおしつぶしつつある。