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“幸せホルモン”の涙 – わたしのクローバー


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濱 孝(天理教信道分教会長夫人)
1972年生まれ

毎日陽気に暮らしていても、いたたまれない気持ちに押しつぶされそうになるときが、たまにある。

私は涙が出ない。一粒でいい、たった一粒でいいから、私の目から涙がこぼれ落ちてくれるのなら、その涙が、くじけそうな気持ちも一緒に乗せて、私のエプロンの上に落としてくれるかもしれない。

涙の働き

涙が出ないのは、膠原病という自己免疫疾患のせいだ。そう診断されて、もう十年以上になる。いつのまにかそんな病気になっていたから、最後に泣いたのがいつかなんて、全く思い出せない。

それでも日常生活で困ることはほとんどなかった。医師から処方された人工涙液を毎日数回さす。それだけで目の乾きは緩和されるし、まばたきだってしっかりできる。世の中には、もっと大変な思いで病と闘っている人がたくさんいる。神様が私にぴったりの身体を貸してくださっているのだから、喜んで大事に使わせていただこう。ずっと、そう思ってきた。

最近よくニュースにあがる薬の供給不足問題。自分にはあまり影響はないと思っていたら、急に余波を受けるようになった。毎回、大量に処方されていた人工涙液も出荷制限がかかり、半分の量に。しかも、一日にさす回数が増えて、常に手元の在庫を気にしなくてはいけなくなった。

なにせ、これがないと目が開けられないのだから、私にとっては一大事だ。万が一のときのために、市販薬で対応できるものを知っておこうと、ネットでいろいろ検索してみた。

たくさんの情報の中に、興味深いものがあった。それは、涙にはいろんな種類があって、”ストレスホルモン”と呼ばれる成分を体外へ排出する働きを持つ涙があるという。私がこのところ感じていたことは、まんざら外れてはいなかったわけだ。

また、流すことで脳内に”幸せホルモン”が分泌される、素敵な涙があることも分かった。外気から目を守り、角膜を保護するだけでなく、涙には心の安定をもたらす働きもあるとは、全く知らなかった。

輝く涙

先日、うちの教会を初めて訪ねてきた女性がいた。教会を会場に行われる行事に参加できないからと、前日に参拝に来てくださったのだ。

イラスト・ふじたゆい

ちょうど主人と会場設営の準備をしていたところだったので、せっかくだからと、明日上映する予定の10分ほどのビデオを見てもらった。すると女性は、途中からポロポロと涙をこぼし、帰るときには溢れる涙で顔がぐしゃぐしゃになった。

聞くと、教会に参拝するのは久しぶりだという。「また、いつでもお越し くださいね」と声をかけながら、「思いきって来てよかった」と話す その方の涙に見とれてしまった。

窓から差し込む太陽の光を反射して、ダイヤモンドのようにキラキラと輝く涙の粒。今度もし、つらい気持ちになったときは、この涙を思い出そう。神様が巡り合わせてくださったその涙を、自分のもののように感じよう。そしたらきっと、私も”幸せホルモン”に満たされる気がするのだ。


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