“天理柔道”を土台に常勝軍団へと育て上げ – 五條東中学校柔道部監督 中尾太保さん
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奈良県五條市にある五條東中学校柔道部は、ここ2年間の公式女子団体戦で負け知らず。夏の「全国中学校柔道大会」をはじめ、主要な大会で日本一の座を手にしている。同部を率いるのは、天理高校・天理大学柔道部OBの中尾太保さん(60歳・天堂分教会ようぼく・奈良県大和高田市)。“天理柔道”を土台に、就任7年で同部を常勝軍団へと育て上げたベテラン監督の手腕は、地元テレビ局で取材されるなど話題になっている。
大和高田市の信仰家庭で育った中尾さん。小学1年生のころ、地元の道場で柔道を始め、天理中学校へ進学。3年時には主将を任され、近畿大会団体戦で準優勝した。その後は天理高校、天理大学へ進み、計10年間にわたって〝天理柔道〟を体に刻み込んだ。
「天理で育ったから、いまの自分がある」と中尾さん。しっかり組んで投げる天理柔道は、現在の指導の根幹にあるという。そうした強い思いもあり、五條東中の柔道場には、天理高柔道部男子の寮「火水風寮」に倣い、「我々の目標」と題した教訓を掲げている。
大学卒業後は、県内の高校や中学校で教壇に立ちながら柔道部の監督を務める。この間、13年間勤めた広陵中学校では、全中大会で2度の優勝を果たした。
人間教育を念頭に
2018年、五條東中に赴任。当時の同部は、全国大会にこそ出場していたものの、優勝争いに食い込む力はなかった。
中尾さんは自身の指導理念について、「全力で練習するからこそ意味がある。突然強くなることはないので、手を抜かず全力で取り組むのみ。柔道に近道はない」と語る。
同部の練習の要は、毎日の基礎トレーニングにある。アップを兼ねた「サーキットトレーニング」では、足さばきや投げなど、柔道の基本動作を取り入れたトレーニングを繰り返し、体の動かし方を学ぶ。休憩中は息切れする声が道場に響き、稽古の厳しさが窺える。
また、道場の壁には「感謝の気持ち」「謙虚な態度」などの標語が掲げられる。これらについて、中尾さんは「柔道が強いだけではいけない」と。授業態度や宿題の提出といった学習面はもとより、落ちているごみを拾うなど、普段から「人間教育」を念頭に置いた指導を続けているという。「中学生として当たり前のことをきちんとこなし、周りから応援される選手になろうと常々伝えている」と話す。
中尾さんが指導するチームは急成長を遂げ、赴任翌年の19年夏に全中大会団体戦で初優勝。23年と24年には、3月の「柔道マガジン杯全国中学生柔道大会」、夏の全中大会、9月の「マルちゃん杯全日本少年柔道大会」、12月の「サニックス旗福岡国際中学生柔道大会」の各大会で頂点に立った。
この結果について中尾さんは、「生徒たちの努力の賜物」と目を細める。「必死にトレーニングを続けた先輩が結果を出すことで、その姿を見た下級生も一生懸命練習するようになる」と経験をもとに語る。同部は現在、3月に開催される柔道マガジン杯全国大会に向けて猛特訓中だ。
中尾さんは「中学の3年間での成長はとても著しく、この期間を無為に過ごしてしまうと、大人になっても何かといい加減に過ごしてしまいやすい。だからこそ、柔道を通して全力で取り組む習慣をつけ、壁にぶつかったときはそのときの努力を思い出してもらいたい。一人でも多くの生徒が『あのとき柔道を頑張って良かった』と振り返れるような指導を、これからも続けていく」と話している。