同行ルポ 教友による救援活動のいま – 「令和6年能登半島地震」から1年
2025・2/26号を見る
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駆けつける信仰者たち
教会拠点に息長い支援
「令和6年能登半島地震」の発生から1年余りが経った。
2024年1月1日に最大震度7を観測した地震は、石川県能登地方を中心に未曽有の被害をもたらした。さらに地震の爪痕が残る9月、同地方で豪雨災害が発生。地震と豪雨の”二重災害”に見舞われた被災地では、現在も多くの住民が避難生活を余儀なくされるとともに、家屋の倒壊や土砂崩れが多発した地域では復旧作業が長期化している。
本教では、地震発生の直後から災害救援ひのきしん隊(=災救隊)が被災地へ出動。給水活動や炊き出し、被災家屋のブロック塀の解体などの支援活動に力を尽くした。また、災救隊の動きと並行して、珠洲市の北乃洲分教会(矢田勝治会長)と寶立分教会(石橋雄一郎会長)が独自に「珠洲ひのきしんセンター」を開設し、各地から駆けつける支援者の受け入れ拠点となり、被災者に寄り添った救援活動が展開された。
災救隊は9月の豪雨災害の際も出動。同センターを拠点とする支援活動も、引き続き行われた。
地震から1年が経過した今年、奇しくものちに「ボランティア元年」と呼ばれる平成7年の「阪神・淡路大震災」から30年の節目を迎えるなか、各地の教友たちが現在も被災地へ駆けつけ、息長い支援活動を続けている。
1月末、西陣大教会(永尾大和会長)の教友たちが被災地へ赴き、同センターを拠点に6回目の救援活動に取り組んだ。その活動に同行取材した。
珠洲ひのきしんセンターを拠点に
6回目の支援活動に力を尽くして
西陣大教会
1月28日午前8時。京都市の西陣大教会(永尾大和会長)では、同大教会につながる教友6人が、ヘルメットや宿泊用具を車に積み込んでいた。
大教会の事務所には、2024年7月の救援活動の様子をまとめたポスターが張り出されるとともに、被災地支援のための募金箱が設置されている。大教会を挙げて取り組む「西陣大教会災害救援ひのきしん隊」のリーダーを務める中島啓和さん(51歳・洛中分教会長)は「このポスターを見て、募金を寄せてくださる人もおられる。本当にありがたい限り」と話す。
同大教会では、14年前の東日本大震災の際、宮城県内で被災した部内教会を支援するべく、独自の救援活動を展開した。その後、部内教会のない地域でも災害発生時に支援活動を行うことの重要性を認識し、「西陣災害対策係」を常設。「平成28年熊本地震」の被災地で復旧支援に力を尽くしたほか、能登半島地震に際しては、珠洲ひのきしんセンターを拠点に、5回にわたり救援活動を続けてきた。
出発時刻、大教会神殿で参拝。6回目の”出動”に際し、永尾会長から激励を受けた教友たちは、被災地へ向かった。
“二重災害”の爪痕残るなか
約6時間かけて、一路、珠洲市へ。市内に入ると、解体作業を進める重機の音が、あちこちから聞こえる。
記者は、これまで能登半島地震の被災地での取材を4回経験。2024年3月の状況と比べて、空き地が多くなっていることに気づく。一方で、いまも倒壊したままの家屋が点在し、山沿いの田畑や道路脇には9月の豪雨による土砂や流木が積み重なるなど、”二重災害”の爪痕が残る。
夕刻、珠洲ひのきしんセンターの事務局がある寶立分教会(石橋雄一郎会長)に到着。入り口で出迎えた石橋会長夫妻が「遠い所から来てくださって、ありがとうございます」と労いの言葉をかける。中島さんは「また被災地で活動させてもらえることをありがたく思います」と返答すると、2024年7月以来の再会を喜ぶ会話がしばし続いた。
同センターは、地震発生から7日後の2024年1月8日、鹿島大教会部属の北乃洲分教会(矢田勝治会長)と寶立分教会が独自に開設。多くの支援者を受け入れ、珠洲市社会福祉協議会(=社協)と連携して避難者の食事の調理や被災家屋の解体作業などに取り組んできた。また、独自のチラシを配って要望を聞き取り、被災者に寄り添った支援活動を展開。地域住民からは”ひのきしんさん”の愛称で親しまれている。
2024年1年間で、同センターを拠点に救援活動に取り組んだ支援者は延べ1万2千人、団体数は約300に上る。1年が経った現在も、支援の申し出が途切れることはない。同センター事務局長の石橋会長は「SNSを通じて活動が広く周知され、教外のボランティア団体や一般企業からの申し込みもある。いまでは社協の認可のもと、地域の方々から作業を直接依頼されるようになった」と話す。
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信者の思いも背負って活動
翌日からの作業内容を確認した西陣大教会の教友たちは、寶立分教会で宿泊。翌29日午前9時ごろ、出動準備を整えたところで、震度3の地震が発生。頻度こそ減っているものの、余震が続く被災地では、いつ揺れが来ても迅速に対応する準備が必要だと気を引き締める。
最初の現場は正院地区の民家で、家主は金沢市へ避難している。西陣大教会の教友たちは、ブロック塀の解体に取りかかった。
気温1度。吹雪のなか、時折、あられが体に打ちつける。教友たちはハンマードリルを駆使し、ボランティアが手で持ち運べる大きさになるまでブロックを崩していく。記者も作業を手伝ったが、極寒の中での力仕事とあって、すぐに体力が奪われていく。高齢者には作業困難だと身をもって味わうとともに、寒さを厭わず作業に打ち込む教友の姿を見て、いまなお被災地で支援が必要とされる現状を、あらためて認識した。
黙々とブロックを崩していた髙橋篤史さん(49歳・南弘德分教会長)は、東日本大震災の際から大教会による支援活動に携わっている。
能登地方での活動は3回目。所属教会の信者の分も体を動かすつもりで取り組んでいるという。「高齢の信者さんが、『募金くらいしかできない』と悩んでおられた。現場に出る人だけが支援者ではなく、被災地の復興を祈り、陰で支えてくださる人も多くいる。被災地へ行きたくても行けない人の思いも背負って活動することを大切にしている」と語る。
復興に向け”支援の輪”広げ
午後1時、降雪が続くなか、若山地区へ移動。現場の田んぼは、豪雨の影響で用水路に土砂が堆積し、水が張られていない状態が続く。教友たちは用水路の土砂撤去に従事した。
田んぼを管理する「有限会社すえひろ」を夫と共に経営する末政節子さんは「豪雨によって事務所内にも土砂が流入し、仕事が完全にストップした。途方に暮れるなか、友人のつてで”ひのきしんさん”に作業を依頼したところ、快く引き受けてくださり、床に溜まった泥の搬出はもちろん、壁紙の張り替えまでしていただいた。本当に感謝しかない」と、豪雨被害発生当時を振り返る。
教友たちはスコップで土砂を掘り出し、土嚢に詰めて搬出。翌30日の午前中まで作業を続け、用水路に水が流れるようになった。
末政さんは「田んぼの用水路に再び水を通していただいたことは、地域の農地復活の糸口になると思う。今後も力を貸していただければ、ありがたい」と話した。
また、30日には西陣大教会の教友2人が”別動隊”として宝立地区の仮設住宅でお菓子配りを実施。「何か困りごとはありませんか」と、被災者に声をかけて回った。
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(30日、宝立地区で)
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珠洲ひのきしんセンターの代表を務める、北乃洲分教会の部内教会である手取川分教会の矢田嘉伸会長は「全国から駆けつけてくださる教友の皆さんの存在に、私たちが励まされている。将来のことでいろいろと不安を抱える住民の方々が、まだ大勢いると思う。今後は、これまでの活動に加え、そうした方々との心のつながりを持てるような支援活動にも取り組んでいきたい」と語った。
◇
30日午後9時、西陣大教会の教友たちは京都市の大教会に帰着。中島さんは「これまでの5回の活動は被災した地域の復旧に努める作業が多かったが、今回の作業を通じて、住民の方々の生活を取り戻すための準備の段階に、ようやく移ってきたと感じる。これからも被災地の復興に向けて活動を継続することはもちろんだが、大教会内に”支援の輪”をさらに広げていきたい」と話した。
後日、西陣大教会の教友のLINEグループに、3月3日から5日にかけて”出動”するとの通知が。これからも被災地での息長い支援が続く。
文=久保加津真
写真=嶋﨑 良