薫風が運ぶ初夏の息吹 一歩先へと踏みだす勇気 – 逸話の季
2025・5/21号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。

新緑の季節です。昨日まで全く変化のなかった木の枝に、たくさんの新芽が吹きだしています。
瑞々しい青葉の若草色には、時節の到来を待っていた生命の息吹と新しい季節の始まりを強く感じます。正月や入学式のような年中行事以上に、この時期の若葉や新芽に新しい季の到来を意識するのは、私だけでしょうか。生命の息吹を後押しする、不思議な力を感じる季節です。
*
明治14年、滝本の村からかんろだいの石出しが行われました。山から山の麓まで引き出された石は、さらに山の麓からお屋敷まで九つの車に載せて運ばれます。ところが、そのうちの一つがお屋敷の門まで来たときに、動かなくなりました。ちょうどそのとき、教祖がお居間からお出ましになって、「ヨイショ」と、お声をおかけくださると、皆も一気に押して、車はツーッと入ります。一同は、そのときの教祖の神々しくも勇ましいお姿に、心から感激しました。
『稿本天理教教祖伝逸話篇』「八二 ヨイショ」
*
当時の情景が目の前に浮かぶようなエピソードです。特に教祖年祭を直前に控えたこの時期に、あらためて拝読したい逸話の一つではないでしょうか。山から切り出した石を麓まで引き出すためには、大変な労力が必要です。道のない場所では、台車などは使えません。さらに長い道のりを多くの人の力で運ばれてきた石は、あと少しのところで動かなくなります。そのとき、皆の背中を押してくださったのは、教祖のお姿とかけ声でした。
*
このときの教祖の神々しいお姿は、信仰生活のあらゆる場面において、すべてのようぼくに次の一歩を踏みだす勇気を与えてくださるはずです。電車の中で席を譲ろうとしたとき、少し元気のない友達に声をかけようとしたとき、訪問先の呼び鈴に手をかけたとき。相手の反応が気になる行為は、いつも一歩先へと足を踏みだす勇気を必要とします。
なかなか前に進めず立ち止まったときは、目を瞑って耳を澄ましてみましょう。教祖の「ヨイショ」というかけ声が、聞こえるような気がしませんか。
文=岡田正彦