産業人として目指すべき「真使命」- 心に効くおはなし
松下幸之助氏は、大正時代の起業以来、事業を発展させてきたが、昭和初期の厳しい不況の時代にあっても、むしろ天理教の本部では全国から数多くの信者が集い、嬉々として「ひのきしん」という名の奉仕活動に励み、壮大な神殿などが建築されていた。この姿を目の当たりにして衝撃を受け、産業界にいる自分と何が違うのだろうかと熟慮したとき、自身はそれまでの一般的な商習慣、氏の言葉では「通念」に基づいてのみ事業を行ってきたが、一方、天理教には強い「使命観」というものがあり、それが人の態度や行動に決定的な違いをつくりだしていると悟り、一般的な事業もまた、強い「使命観」を持つことが必要であることを学んだ、ということである。
そして感得した自身の使命観とは、もし産業界が生産活動を通じて、ちょうど水道水のように、人が作ったものでありながら潤沢に無尽蔵に供給することができれば安い価格となり、貧しい人でも手にすることができる。これは、いわば「貧乏を克服」することであり、それこそ産業人として目指すべき「真使命」ではないかというのである。
幸之助氏によれば、「宗教道徳の精神的な安定と、物資の無尽蔵な供給とが相まって、はじめて人生の幸福が安定する」とし、宗教と産業は、いわば「両輪」となって広く社会の人々を幸福にできるのだから、産業もまた宗教に負けない「聖なる経営」である、と結論づけた。