二上山と有明の月 – 山の辺の道 心の景
平安時代の著名な歌人に「素性」という法師がいる。三十六歌仙の一人で、現在の天理市布留町にあった良因寺に住んでいた。代表作の一つが『百人一首』の次の歌だ。
今来むと いひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかな
「すぐ来ると言うから、秋の夜長を待ち続けていたのに。有明の月の時刻になっても、あの人はまだ来ない」
「有明の月」とは、夜が明けても空に有る月のこと。この歌は女性の心を詠んだものといわれるが、誰を待っていたのだろう。
写真は、夜明け前の大和平野の西。日の出を撮影しようと東向きにカメラを構え、ふいに後ろを振り返ると、二上山に有明の月が。悲しげで不思議な光景だったが、ほどなく朝の光に包まれ消えていった。
その後、良因寺は廃絶。跡地にあるのは案内板のみ。それでもハイカーたちが時折訪れ、往時に思いを馳せている。
(J)
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