夏の県大会決勝の再戦 真剣勝負で“心ひとつ”に – 天理高校野球部
“夏の再戦”を決勝の地で――。天理高校野球部は9月11日、奈良県橿原市の佐藤薬品スタジアムで生駒高校と練習試合を行った。今年7月の「全国高校野球選手権」奈良大会決勝では、新型コロナウイルスの影響で主力を欠いた生駒高を破り、天理高が甲子園出場を決めた。試合後、ベストメンバーで戦えなかった生駒高を慮った天理の中村良二監督(54歳)の申し出により、このたびの再戦が実現。当日は、球児たちの全力プレーに球場が沸いた。
今夏の全国高校野球選手権奈良大会。準決勝で智辯学園高校を破った生駒高は、天理高との決勝前日に、新型コロナウイルス感染の疑いのある選手が複数人いることが分かり、メンバー20人のうち12人を入れ替えざるを得ない緊急事態に陥った。
決勝では、天理の大量リードで迎えた最終回2アウト。タイムを取った天理ナインがマウンドに集まると、戸井零士キャプテン(当時)が相手のチーム事情に配慮し、「試合後に喜ぶのはやめよう」と呼びかけた。
その言葉通り、試合終了後の天理ナインはマウンドに集まることなく、すぐに整列。相手チームを慮る球児の姿は、多くのメディアで報じられた。
その後、天理高の姿勢に感じ入った生駒高側が「頑張ってほしいという思いを伝えたい」と、「つなぐ心ひとつに天理高校野球部」と染め抜いた横断幕を制作。この文字は、天理高のテーマ「つなぐ」と、生駒高が長く大切にしている「心ひとつに」を合わせたもの。甲子園では、天理高アルプス席に掲げられた。
さらに、2回戦の海星高校戦(長崎)には、生駒高の選手たちが現地で試合観戦。天理ナインは“球友”の声援を受けながら戦った。
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このたびの練習試合は、不完全燃焼で夏を終えた生駒高ナインの気持ちを思いやった中村監督が、双方ベストメンバーでの“真剣勝負”を提案したもの。
この申し出を生駒高側も快諾し、奈良大会決勝が行われた佐藤薬品スタジアムで、すでに引退した3年生らによる練習試合が実現した。
当日は、両校保護者や高校野球ファンなど多くの観戦者が集まるなか、試合前のシートノックがスタート。通常はチームごとにノックの時間を分けるが、この日は両校の選手が同時にグラウンドに入り、和気あいあいとした雰囲気のなか行われた。
また、天理高に贈られた横断幕は、この日も天理高側のスタンドに掲げられた。
7イニング制で行われた練習試合は、三回裏に天理高が先制。その後、六回表に生駒高が2アウトから長打と内野安打で2点を挙げて逆転した。
その裏、天理高の内藤大翔選手(3年)がホームランを放つ。生駒高は同点に追いつかれたが、ダイヤモンドを1周する内藤選手と生駒の内野陣がハイタッチし、互いの健闘を称える場面も見られた。
その後、天理高が1点追加し、3‐2で迎えた最終七回表。2アウトとなり、夏の決勝と同じタイミングで天理がタイムを取ると、今度は戸井・元キャプテンが「最後は全員で集まって喜ぼう」とナインに呼びかけた。
ゲームセット直後、勝利した天理高ナインがマウンドに集まると、後を追うように生駒高ナインもマウンドへ。両校選手がマウンドに入り乱れて歓喜した。
戸井・元キャプテンは「生駒高校の選手は、夏の大会でつらい思いをしたと思うので、こういった形で笑顔でプレーできたことはすごくうれしく、楽しい試合になった」と笑顔を見せた。
中村監督は「勝ち負け以上に、野球っていいなと、あらためて感じた試合だった」としみじみ語った。
北野定雄・生駒高監督(63歳)は「今日はあらためて、子供たちの成長とたくましさを感じさせてもらった。試合を提案してくださった天理高校には感謝しかない」と話した。
熊田颯馬・生駒高元キャプテン(3年)は「僕自身も悔いが残っていたので、全員で終わることができてうれしかった。高校生活で一番楽しい試合だった」と手放しで喜んでいた。
当日の試合の様子を動画で見ることができます。