再び“核の時代”に – 手嶋龍一のグローバルアイ17
久々に天理市を訪れて、コラム「手嶋龍一のグローバルアイ」を読み、感想を寄せてくださる方々と「危機の時代をいかに生き抜き、日本はどんな役割を果たすべきか」について直に語りかける機会を得た。会場に来られなかった読者にも私のメッセージをお伝えできればと思い、筆を執った。
あの冷戦の時代、東西両陣営が核の刃を手に対峙していた最前線だったドイツの暫定首都ボンとアメリカの首都ワシントンで暮らし、ソ連の首都モスクワにも飛んで取材した。米ソの指導者が瞬時でも判断を誤れば地球はたちまち破滅してしまう。そんな局面に幾度も立ち会った。それだけにベルリンの壁が崩壊し、冷たい戦争が終わった時には、これで核の惨劇は遠景に去ったと安堵した。
だが、いま“プーチンの戦争”を目の当たりにして、我々はなお“核の時代”の真っただ中にいることを認めなければならなくなった。プーチン大統領は、ウクライナの戦局が思わしくないとみるや、職業軍人と民間の傭兵による「特別軍事作戦」の旗を降ろし、30万人の市民に動員令を発して新たなステージに突き進もうとしている。ロシアは、ウクライナの戦場でアメリカに支えられた「戦争マシーン」に直面していると述べ、ウクライナの戦いは「プーチン対ゼレンスキー」から「プーチン対バイデン」の直接対決になりつつあると断じたのだった。
「わが領土が脅かされるなら、あらゆる手段を使って応じてみせる。これは断じて脅しなどではない」
プーチン大統領はこう明言し、ウクライナの戦場で核兵器を使うことも辞さないという姿勢を鮮明にした。その一方でザポリージャ原発を制圧し「原子の火」を手中に収めて、西側世界に攻勢に出ようとしている。
唯一の被爆国ニッポンはかかる危機を前にして手を拱いていることは許されない。核兵器を持たない全ての国を束ねて、来年のG7サミットを待たずに「ヒロシマ緊急会合」を関係国に呼びかけ、核戦争を食い止めるため行動すべき時だろう。