共和党トランプ派に陰り – 手嶋龍一のグローバルアイ19
“共和党のブッシュ”対“民主党のゴア”の対決は、米史上稀に見る激戦となった。フロリダ州の開票結果で次の大統領が決まるのだが、票差はまさしく髪の毛一本。裁定は最高裁に持ち込まれた。投票から1カ月、ゴア氏は最高裁の判断を受け入れ、ホワイトハウスにブッシュ氏を訪ねた。氷雨が降るなか、ブッシュ氏は自ら傘をゴア氏にさしかけて迎えた。これ以上争いを長引かせれば、アメリカの民主主義が傷ついてしまう――敗北を潔く受け入れたゴア氏に心から敬意を表したのだった。あの日の光景はいまも鮮烈に覚えている。
あれから20年、共和党の大統領だったトランプ氏は「選挙は盗まれたものだ」と主張し、トランプ支持派は大挙して議事堂に雪崩れ込んだ。今回の中間選挙でも200人を超すトランプ支持派が、先の大統領選に不正があったと訴えた。心ある有権者はこうした潮流に危機感を募らせて投票所に向かい、共和党が上下両院を大差で制する「赤い大波」を阻んだのだった。だが、トランプ氏は次期大統領選への出馬を表明した。いま名乗りを挙げなければ、国家機密を不正に持ち出し、暴徒を煽って議事堂を襲わせた容疑で、司法・捜査当局の手が伸びる。大統領候補になれば当局も選挙への介入を手控えると計算したのだろう。
共和党内にはいま“トランプ離れ”の動きが出始めている。フロリダ州のデサンティス知事やペンス前副大統領らが出馬の機を窺っている。現職のバイデン大統領は既に80歳。記録的なインフレや治安問題で失政が続き、いまならホワイトハウスを奪還できると見ているからだ。だが、トランプ氏が指名争いに敗れても更なる保守強硬派が台頭する可能性がある。すでに共和党内には「国内の懸案にこそ取り組むべきであり、ウクライナ支援のあり方を見直すべきだ」という声が強まっている。こうした「アメリカ・ファースト」の潮流は、米国と安全保障の盟約を結んできた日本にも影響を与えずにはおかない。米国の関心が内向きとなれば、台湾海峡のうねりはさらに高まり、日本列島を直撃すると覚悟すべきだろう。