第20話 アフリカの悲しい物語 – ふたり
作/片山恭一 画/リン
真っ白い砂がきらきら輝いている。フウちゃんはホテルでの仕事の行き帰りにここを見つけたらしい。
「こんな砂浜はアフリカでもアメリカでも見たことがないよ」
浜辺に来るといつもやる遊びをはじめた。カンが黄色のテニスボールを海に向かって投げる。わたしは弾丸のように飛び出し、水のなかを猛然と駆けてボールを取ってくる。体力維持のための軽い運動といったところだ。
ツツは自分もやりたいと言った。腹立たしいことに、彼女の投げたボールはカンよりも遠くまで飛んでいった。暑さで頭ががんがんする。全身の毛が水で濡れているのか汗で濡れているのかわからなくなった。
フウちゃんが「お昼だよ」と言ってくれなければ、波打ち際で息絶えていたかもしれない。サユリさんが手製のサンドイッチを持たせてくれていた。パンはハハが焼いたものだ。魔法瓶には熱いコーヒーが入っている。
カンがハムとチーズを挟んだサンドイッチを少し分けてくれた。ツツも同じようにした。今日一日、カンのやるとおりに自分もやってみるつもりらしい。
「わたしもピノみたいに真っ黒い髪だったらよかったな」。ツツが誰にともなく言った。「別にいまの髪がいやってわけじゃないのよ。でも、やっぱり黒のほうがいいな。とくにこの国ではね。目立っちゃうから、明るい茶色は」
羨望のまなざしを受け止めかねて、わたしは立ち上がった。波は静かで水は宝石のように透き通っている。浅瀬でカニが海藻をついばんでいる。砂の表面には波の跡が残っていて、小さなヤドカリが歩いては立ち止まり、また歩きだすといったことを繰り返している。
天国のように平和だった。海も空も美しく、砂浜に群生した植物たちはみんな静かで、ヤシの木は明るい日差しのなかでまどろんでいる。あまりにも申し分のない一日は、かえって現実味のないものに感じられる。この平穏な一日が、ずっと終わらなければいいと思った。
フウちゃんが修理したばかりの太鼓を叩いていた。ツツとカンは水に入って、丸いすべすべした小石や、砂で磨かれたガラス瓶のかけらなどを集めている。わたしはヤシの木陰に寝そべって太鼓の音色に耳を傾けた。太鼓は女の人が泣いているような悲しい音色をたてた。
帰りの車のなかで、フウちゃんはアフリカの音楽の話をしてくれた。アフリカに暮らす多くの人たちのあいだでは、数世代前まで文字で何かを書き記す習慣がなかった。それで土地の伝説や物語を残すときには歌で伝えた。だから音楽はとても大切にされた。
話を聞きながらわたしは思った。さっきフウちゃんが叩いていた太鼓は、きっと悲しい物語を伝えるものだったのだろう。
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