「綿匠新貝ふとん店」店主 新貝晃一郎さん(NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で紹介)
“日本一の布団職人”がつくる人びとの笑顔
「現代の名工」に選ばれるなど、その匠の技に高い評価を受ける“日本一の布団職人”がいる。「綿匠新貝ふとん店」3代目店主・新貝晃一郎さん(56歳・興津分教会ようぼく・静岡市)だ。新貝さんが手がける木綿布団は、すべてオーダーメード。お客さんの体格や生活スタイルに合わせて数種類の綿を配合し、世界に一つだけのオリジナル布団を仕立てていく。その仕事ぶりがNHKの人気番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で紹介されると、全国から注文が殺到しているという。布団作りの先にある、お客さんの笑顔をつくりたいと話す“綿の匠”の思いとは―――。
静岡市の小さな港町にある新貝ふとん店は、新貝さんと母の登起江さん、パート従業員の3人で営む。販売店舗のほか、1階に綿工場、2階に仕立て場がある別棟を構える。
接客もこなす新貝さんは、作業着にネクタイ姿で木綿布団の特徴を説明する。
木綿布団は次のような手順で作られる。
まず工場での準備作業として、硬さや長さの異なる木綿を配合し、専用の機械で混綿のシートを作成する。次に仕立て場へと移り、約20枚のシートを何層も重ね合わせていく。重さや厚さなど細部までこだわり抜き、納得のいく状態になるまで数時間かけて調整を重ね、最後に表面を生地で包んで完成となる。「数種類ある木綿の細かい配合の比率が布団の出来に影響する」と、こだわりを口にする。
戦前から90年以上続く新貝ふとん店。工場には、代々受け継がれてきた機械が並ぶ。機械には、祖父や父が仕事に取り組むうえで大切にしていた精神が文字として刻まれている。
一方、仕立て場の壁には、新貝さん自身の、布団作りに欠かせない“教訓”がチョークで綴られている。
「一番大切にしていることがあります」と言いながら、新貝さんはある言葉を指さす。
「ふとんを作るのではなく、その向うにある笑顔を作る!」
そこには、“ようぼく布団職人”としての強い思いが込められている。
誰にでもできることを誰にもできないくらい
ふとん屋の長男として、職人である祖父、父の“背中”を見て育った。
もう一つ、見てきたものがある。それは、神実様の前で額ずく祖父や父の姿だ。新貝家の信仰は、息子の身上をご守護いただいた曾祖母の入信に始まる。信仰は祖父へと引き継がれ、祖父は職人と布教所長の二足の草鞋をは 履いた。新貝さん自身も、曾祖母や祖父から「神様は、いつも私たちを見守ってくださっているんだよ」と聞かされて育った。
高校卒業後、家業のふとん店を継ぐことを決意し、「やるからには日本一の布団職人になろう」と誓う。東京蒲団技術学院を経て実家に戻り、木綿布団を仕立てたが、当時すでに安価な布団が広く流通していたため、最初の3カ月間は全く売れなかったという。
心が折れかかったある日、祖父の代からお世話になっていた顧客から注文が入った。ふと、曾祖母や祖父の言葉を思い出す。「神様は、やっぱり見守ってくださっているんだ」。その後も経営が苦しくなるたびに、思わぬところから依頼が舞い込んだ。新貝さんは、神様はもとより、信仰を伝えてくれた曾祖母や祖父への感謝の思いを強くしていった。
「私も神様の思いに沿う通り方ができれば」と漠然と考えていた25歳のころ、ある教会長から次の言葉をかけられた。
「ひのきしんやにをいがけ、おたすけには、いろいろな種類があり、やり方も人によってさまざま。皆それぞれに神様からお与えいただいた役目がある。あなたは布団作りを通じて、できることをすればいい」
新貝さんは、ハッとした。
「睡眠時間は人生の3分の1を占めるのに、布団へのこだわりがないために、疲れが取れないなどの悩みを抱える人は少なくない。私が良い布団を作ることで、睡眠中に今日の疲れを取り、癒やされリフレッシュして、また明日も笑顔で過ごせる人が増えれば、“私にできるおたすけ”につながるのではないか。私なりのやり方で、人さまに喜んでもらおう」
以後、新貝さんは綿の種類や配合の研究、仕立ての技術に、さらに磨きをかけた。また、お客さんの自宅へできるだけ足を運んで睡眠時の悩みを聞き取り、腰痛に苦しむ人は敷き布団の腰の部分の綿を厚くしたり、高齢の人が寝苦しくないように掛け布団の襟元を軽くしたりするなど、細部まで徹底的にこだわった。
「だれにでも出来ることをだれにも出来ないくらいやる!!」
そう仕立て場の壁に綴るように、決して手を抜かず、お客さんの笑顔を求めて、自身の持つ100㌫の力で布団を作り続けた。布団を購入した人からも「これまで掛け布団がずれ落ちて熟睡できなかったが、新貝さんの布団はずれることがなく、初めてぐっすり寝られた」など、喜びの声が寄せられるようになった。
代々の徳を頂いたおかげ
タスキを次世代へつなぐ
こうしたなか、31歳のとき転機が訪れる。30職種の技能者のトップを決める「全国技能グランプリ」で全部門優勝を成し遂げたのだ。
これをきっかけに仕事は軌道に乗り、多忙に。その一方で、「火水風のご守護」などの神様のお働きを強く意識するようになった。
取り扱う木綿は、布団にして使えば、保温性や吸湿性に優れた特性が際立つ。快眠のために重要な布団内の温度や湿度が一定に保たれることで、心地よく眠ることができる。
「教祖がおっしゃるように、木綿には素晴らしい要素がたくさんある。しかし人間は、そのありがたさに気づきにくいために、神様が用意してくださった天然素材を生かした物が、どんどん少なくなっている。神様がご守護くださる天然素材の素晴らしさに、一人でも多くの人に気づいてもらえれば」
そんな思いを持ちながら、38年にわたり丁寧に仕事に取り組む中で、2017年に「現代の名工」に選出。19年には「黄綬褒章」を受章した。
新貝さんは、信仰があったから、諦めずに布団作りを続けてこられたと振り返る。
「神様やご先祖様がいつも見守ってくださったからこそ。代々の徳を頂いたおかげで、大きな花を咲かせてくださった。決して自分一人の努力の賜物ではない。日々、感謝とおかげさまの気持ちをもって、私が受け継いだタスキを次世代へつないでいきたい」
綿製の「作務衣」に身を包む新貝さんは、仕立て場に正座して拝をする。そこから、布団に魂を吹き込む、仕立ての作業が始まる。
木綿シートを交互に重ねると、四隅をちぎり形を整える。美しさに定評がある「角づくり」の工程だ。完成後は見えない部分だが、この作業が布団の寝心地を左右する。角がピンと張り、きれいに整えられた中綿を、遠州織の生地で包むと、至極の逸品が完成した。
「布団作りを通じて“私にできるおたすけ”につなげていくことが、神様からお与えいただいた使命だと確信している。自分の役割を生涯かけて全うしていきたい」
こう話す新貝さんは、今日も布団を作り続ける。その先に待つ、一人ひとりの笑顔のために――。
(文=木村一正、写真・動画=山本暢宏)