米中対立のはざま – 手嶋龍一のグローバルアイ1
台湾海峡のうねりが徐々に高まっている。米中の対立が厳しさを増し、国際政局の波がここに及んでいる。一片の外交文書だけで地域の平穏を保てるわけではない。それでも1972年に米中が交わした「上海コミュニケ」は、台湾と中国大陸を隔てる海峡を半世紀にわたって波穏やかに保ってきた。
米国政府は「台湾問題の平和的解決を求める」とクギをさし、「一つの中国政策」を支持すると述べて、米中の安定した関係の礎を築いたのだった。だが、中国政府はその後も台湾の武力解放の主張を取り下げず、一方のバイデン政権も民主党の新綱領から「ひとつの中国を支持」というくだりを削ってしまった。米中和解の土台が次第に崩れ始めているのである。
バイデン政権の発足後、アラスカの地で初めて行われた米中の外交協議は、両国の対立が険しくなっていることを際立たせた。ブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障大統領補佐官は、楊潔篪政治局員と王毅外相に激しい口調で詰め寄った。米側はウイグル、香港、台湾への中国の攻勢を非難し、中国側は「内政干渉だ」と一歩も譲らなかった。米中ともに、互いの国内に強まる反中、反米の感情を意識し、敢えてテレビカメラの前で1時間にわたってやり合ったのだった。
バイデン政権の外交チームはアラスカ会談に先立ち、日本で「外務・防衛閣僚協議」を行い、韓国も訪れている。対中包囲網を敷いたうえでアラスカ会談に臨む周到さだった。まず先制攻撃に出て、その後に中国側を対話の土俵に誘い込もうとしたのだろう。だが、中国側がアメリカ側の読み通りに動く保証はない。
菅総理は4月ワシントンに飛び、バイデン大統領と初の日米首脳会談に臨む。台湾海峡で不測の事態が起きれば直ちに日本の安全が脅かされる。台湾有事の勃発を外交の力で未然に防ぎ止めることこそ日本の責務だ。
手嶋龍一
外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長として9・11テロ事件の連続中継を担当。代表作に『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・サバイバル』、『外交敗戦』、最新作に『鳴かずのカッコウ』など多数。