すべてに捧げる究極の愛の歌 – 日本史コンシェルジュ
構想から6年、念願だった絵本の出版が実現しました。タイトルは、『ちよにやちよに――愛のうたきみがよの旅』。
世界87カ国の国歌を紹介した弓狩匡純氏の著書『国のうた』には、戦争や革命など、多くの命の犠牲のもとに紡がれた歴史の伝承者という役割が国歌にはある、と記されています。隣国との戦いに奮い立つ歌であったり、植民地支配から独立を願う自由への賛歌であったり、国歌の歌詞を嚙みしめれば、その国のありようが見えてきます。
日本の国歌は『君が代』。わずか32音からなる世界一短い国歌であり、世界で最も古い歴史を持つ国歌といわれています。君が代の本歌は、約1,100年前に編纂された『古今和歌集』にありました。「題知らず、よみ人知らず」で、「わが君は千代に八千代に さざれ石の巌となりて 苔のむすまで」と記されています。
もとの歌は、「君が代」ではなく「わが君」。当時、主に女性が愛する男性を呼ぶときに「わが君」と言ったのです。歌の意味は、こうです。「愛するあなた、あなたの命がいつまでもいつまでも、長く続きますように。例えて言えば、小さな石が、年月が積もり積もって大きな岩となり、その表面に苔が生えるまで。そのぐらい、あなたの命がずっと続きますように。そして、あなたがずっと幸せでありますように」
平安時代に生きたある人物が、ただ一人の大切な人に寄せたラブレター、それが「君が代」の本歌です。そこには、愛する人の長寿と幸せをひたすら祈る、利他の心が溢れています。この歌は、やがて「わが君」が「君が代」へと手を加えられ、多くの人に愛され、歌い継がれてきました。そして明治に入ると、国歌として歌われるようになります。「よみ人知らず」、つまり作者不詳の歌が国歌になった、そこにこの国のありようが象徴されているように思えるのです。
『君が代』を口ずさむとき、誰を「君」と思うかは、歌う人の自由です。愛する人でもいいし、動物や植物だっていい、想像力をかきたてれば、地球や月、宇宙にまで対象を広げることができます。人類愛、地球愛、宇宙愛につながる究極の愛の歌。それが『君が代』です。
和を尊び、命を慈しんできた先人たちの真心が、国境や文化の違いを超え、世界中の人々の心に希望の光を灯しますように。
白駒妃登美(Shirakoma Hitomi)