人に寄り添って ヒューマンストーリー – 京都の市村恵子さん
「ペットロス」に苦しむ飼い主手作り人形で心を癒やして
近年、核家族化や少子化が進む中で、国内のペット飼育頭数は年々増加しており、ペットを“家族の一員”と見なす人は少なくない。こうしたなか、ペットの死を“大切な家族の死”と同様に捉える人も増えている。愛するペットの死をきっかけに、精神疾患などに苦しむ、いわゆる「ペットロス」の問題が注目されつつある(コラム参照)。
ペットロスに苦しむ人の心の支えになればと、市村恵子さん(47歳・明四十一分教会ようぼく・京都市)は、羊毛フェルト(羊毛を専用の針で刺し、繊維を絡めながら成形する手芸の一種)で猫の人形を制作・販売している。まるで生きているような愛猫の人形は、口コミで話題に。新聞やテレビ番組などでも紹介され、反響を呼んでいる。
独学で人形作りを学ぶ
信仰3代目。信仰熱心な母・真理子さん(78歳)に連れられて、幼少から所属教会へ足を運んだ。
平成15年に結婚。その後、出産を機に、勤めていた会社を辞めた。家事をしながら、自ら制作したかばんなどを、インターネットのハンドメードサイトで販売するようになった。
そんななか、4年前、インターネット上で、いまにも動きだしそうな動物の人形と出合う。羊毛フェルトで制作された人形に魅せられた市村さんは、独学で作り方を学び、完成した作品をハンドメードサイトで紹介するように。すると、すぐに購入者が現れ、「ペットに似た作品を作ってほしい」と依頼が舞い込むようになった。
そのほとんどが、ペットロスを経験した人からの注文だった。なかには、いままさに不眠症で悩んでいる人や、うつ病で苦しんでいる人もいた。
そんな依頼者に対して、市村さんは「家族同様に暮らしたペットを失った人の心に、少しでも寄り添えるように、まずは、ペットの思い出話に耳を傾けている」と話す。
細かな要望に応えて
オーダーを受けると、飼い主から提供された愛猫の写真や動画を丹念に見る。そして時間をかけて、ペットの表情や仕草をもとに、性格などを分析したうえで制作に取りかかる。
その工程は多岐にわたり、緻密な作業の繰り返し。「死んだ猫の地毛を生かしてほしい」などの細かな要望にも親身に応えている。
丹精込めて作った作品を手にした依頼者からは、「愛する猫がわが家に帰ってきてくれたようで、うれしくて涙が止まりません」などの感謝のメッセージが多数寄せられているという。
市村さんは「趣味から始まった取り組みが、いつしか“自分にできるおたすけ”だと思えるようになった。いまは、その使命感で針を手にしている。これからも、ペットロスに苦しむ人の心に寄り添っていきたい」と語った。
下記のURLから、市村さんの作業の様子を動画で視聴できます
コラム – ペットロスの現状
現在、日本におけるペットの飼育頭数は、15歳未満の子供の人口を大きく上回る。ペットは単なる「愛玩動物」から「コンパニオンアニマル(伴侶動物)」へと役割を変えつつあり、ペットロスに苦しむ人は、飼育頭数の増加に伴って増えている。
またペットロスは、周囲の人に理解されにくい面があり、心のケアが遅れがちで、精神疾患を悪化させるケースが問題視されている。