ようぼく百花SPECIAL 明日へChallenge – スネアドラム“世界一”に 森勝多郎さん
このコーナーでは、さまざまな分野でChallengeするようぼくを紹介します
人に喜んでもらえる演奏を
「WGI」で最高評価を獲得
「人に喜んでもらえる演奏を披露したい」。アメリカで開催される世界最大級のマーチングの国際大会「ウインターガード・インターナショナル(WGI)」パーカッション・ソロスネア部門に出場した森勝多郎さん(22歳・正家分教会ようぼく・奈良県橿原市)。親里で培った信念を胸に、世界の大舞台で実力を発揮。初挑戦でスネアドラム“世界一”の栄冠をつかんだ。
鼓笛隊と天理校吹奏楽部で教えに親しみ技術を高めて
「感謝と思いやりの心」
未信仰家庭に育った森さん。小学2年生のとき、友達に誘われて「こどもおぢばがえり」に初めて参加した。「おやさとパレード」を観覧し、日本トップレベルのマーチングバンドや鼓笛隊の演奏に心を奪われた。
「僕もやりたい」
すぐに「明和団明和鼓笛バンド」に入った。明和大教会(奈良県桜井市)で行われる練習に参加。おつとめを勤めるとともに、折にふれ、お道の話を聞いてきた。
当初はファイフ担当。小学5年生になると「小さいころから憧れていた」ドラムを叩くように。「こどもおぢばがえり」の「鼓笛オンパレード」では毎年「金賞」を受賞した。
「練習が大変だと思うときもあったけれど、たくさんの友達と過ごすことが何より楽しかった。優しいスタッフの皆さんに支えられながら、とてもありがたい環境で練習させてもらった」と振り返る。
中学3年生のとき、「将来はマーチングの本場アメリカへ行きたい」と考えるようになった。夢を叶えるために自身の音楽性を高めようと、天理高校へ進み、吹奏楽部に入部した。
「心に訴える演奏を」をモットーに掲げる同部。1年生のころは練習についていくことに必死で、自分のことしか考えられなかったという。
そんななか、2年生になったころ、「こどもおぢばがえり」や「全日本高等学校吹奏楽大会in横浜」など、さまざまな舞台で演奏するうちに、自分一人の力で舞台に立てているのではないと気づいた。そして、家族をはじめ、支えてくれる人たちに感謝することや、人を思いやる心が大切だと思うようになった。
その心境の変化は練習にも現れた。それまでは、自分の演奏技術を高めることだけを考えていたが、感謝と思いやりの心を持つ中で、「人に喜んでもらえる演奏」を強く意識するように。こうしたなか、3年時にはパーカッションパートのリーダーを任された。
「鼓笛隊や天理高校吹奏楽部で練習を積む中で、『感謝と思いやりの心』の大切さを学ぶことができたと思う。それは、教会の人たちや天理高校の恩師、同級生との出会いを通じて、お道の教えを知ったからこそ」と。
コロナ禍の中も挑み続け
アメリカへ渡り、スネアドラム奏者として活動するには、毎年行われるマーチングチームの入団試験に合格しなければならない。また、ドラムパートに限って、受験資格が21歳までという年齢制限が設けられている。
森さんは部活動を引退後、渡米を目標に、独自に練習を始めた。吹奏楽とマーチングでは、スネアドラムの奏法が異なる。動画サイトでプロの演奏を繰り返し見て、少しでも近づけるよう研究を重ねた。
しかし、1年目の試験は不合格。“世界の壁”に跳ね返された。その後、なおも懸命に練習を重ね、挑戦2年目の2019年9月、晴れて入団試験に合格。米国行きの夢を叶えた。
同年12月に渡米し、憧れの地でドラム練習に明け暮れる日々を送った。
そんな矢先、新型コロナウイルスの感染が急拡大。4月に行われる予定だった大舞台「WGI」の大会が急遽、中止になった。
「人生の中で数回しか挑戦できない大舞台へのチャンスを、コロナの影響で失った。あれほど悔しい思いをしたことはなかった」
帰国後も続くコロナ禍のさなか、もう一度アメリカへ行くことは想像すらできなかったという。それでも、所属していたチームから声をかけられ、再び試験を受けてアメリカ行きの切符を手にした。
アメリカで2年目のシーズンを迎えた森さん。例年のようなチームでの活動が難しいことから、「WGI」ソロスネア部門への出場を決めた。
大会に向けて、自身初の作曲にも挑戦。心がけたのは、天理高で学んだ「人に喜んでもらえる演奏」を表現すること。普段、ドラムの演奏を聞く機会がない人にも楽しんでもらえる曲作りを目指した。さらに、曲全体を通じて、日本人ならではのリズムを感じてもらえるよう工夫を凝らした。自らのこれまでの歩みを投映したその曲に『CANVAS』と命名した。
コロナ禍の中の大会は、録画審査で行われた。2月の予選では、世界から選ばれた8人のドラマーたちを相手に勝ち抜き、決勝進出。4月に行われた決勝では見事「最高評価」に輝いた。「自分の演奏が評価されたことはもちろんうれしいが、何より、これまでお世話になった人たちに喜んでもらえたことが特にうれしかった」と笑顔で話す。
現在、自身の演奏活動の傍ら、地元の中学や高校でドラムを指導している。また、自身が所属していた鼓笛隊にも時折、練習を見に行くという。
「天理で学んだ“人を喜ばせて自分も楽しむ”という信念を大切にしながら、これからもたくさんの人をドラムで楽しませていきたい」
文=島村久生