時報歌壇(8月22日号) – 植田珠實 選
哮えている口の形に見ゆるなり
自粛の部屋に咲くアマリリス
東村山市 加藤八重子
障害児支援事業所を手伝いて
見守る吾が癒やされていく
玉野市 藤原良用
コロナ禍で誰にも会えぬ日がすぎて
一人淋しく膝をかかえる
京都市 寺澤幸子
介護には思いもかけぬ幸のあり
静かに続く母と暮す日
横浜市 及川秀代
膝をつき傷つけぬようコツコツと
遺跡掘るようジャガイモ掘りは
日立市 高岡とみえ
寿司買えばカーネーション一本ついてくる
連休明けの今日は「母の日」
奈良市 渚たえ子
逝きて三年来るあてのなき手紙待つ
ポスト見る癖未だ直らず
市川市 小松富子
小児麻痺などと言われた麻痺の身を
借りたまいたる親を誇りに
伊勢市 小林美珠希
老いてなほ学びたきこと多多あれど
先づは良き歌一首詠みたし
呉市 月原光政
老人と笑うな今は雨宿り
気は元気なり病みて一年
川崎市 木村道治
おさづけを頼りひとつに外国へ
渡りし叔母の出直しを聴く
一宮市 伊藤恵子
朝づとめの合い間に聞こえる牛蛙
あたりに響く眠そうな声
甲賀市 山田婦美子
どこからか飛んで根づいたギボウシが
うすむらさきの花を咲かせる
福山市 藤井光子
はつ夏の介護施設の軒先に
つばめの子育て今年も始まる
所沢市 三上理恵子
猫が来てまた葉書など書くのかと
睨む気にしないとにらみ返す
宇佐市 三好秋美
選者詠
仙田善孝・三宅雅史氏著『「かりもの」のからだのふしぎ』ご上梓御祝い
「みじかかる一世とおもへ」神よりの
借り物の身をしみじみ思ふ
【評】
コロナ禍、そして大雨の災害など不安な日々は続いています。アマリリスの花さえ吼えているように見えると加藤さん、人を見守ることは心を癒やされると藤原さん、誰にも会えない淋しさを訴える寺澤さん。どうぞ皆さま、佳き秋をお過ごしくださいますよう。
次回は、10月末までの到着分から選歌。
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