人口減少社会その先に – 視点
8月23日付け『日本経済新聞』1面に「人類史 迫る初の減少」との見出しが躍った。世界人口が2064年の97億人をピークに、人類史上初めて減少するという、米国ワシントン大学の未来予測を報じたものだ。
この傾向をパンデミックが加速させている。日本では、新型コロナウイルスの感染拡大と経済環境の悪化で出産を控える動きが広がり、少子化に勢いがついた。2020年の出生数は前年比3パーセント減の84万人となり、調査開始以来の最少を記録。このペースが続けば、翌21年は戦後初の80万人割れとなる試算もある。
こうした報道では必ずと言っていいほど、経済の縮小や社会保障制度の破綻など人口減少社会のデメリットが強調されるが、なかには、これを「成長社会」から「成熟社会」へ転換する潮目と見る専門家もいる。京都大学教授の広井良典氏は「日本の高度経済成長期の歪みを解消するチャンス」と捉え、都市集中型から地域分散型へとモデルチェンジしていく分岐点とすべき、と提言している。
著作家の山口周氏は、低成長や停滞といった言葉で語られる今日の日本社会は、いわば文明のゴールとしての、明るく開けた幸福な「高原社会」だと言う。こうした成熟社会は刺激も魅力もない姿に映るかもしれないが、ここで向き合うべき真の課題は、「経済以外の何を成長させれば良いのかわからない」という社会構想力の貧しさであり、「経済成長しない状態を豊かに生きることができない」という私たちの心の貧しさにある、と喝破している(『ビジネスの未来』)。
コロナ禍の大打撃に見舞われた世界の経済界から今年、新たな提唱がなされた。世界経済フォーラム(通称ダボス会議)は、特別年次総会のテーマに「グレートリセット」(大刷新)を掲げ、「人々の幸福を中心とした経済に立て直すべき」と謳っている。
パンデミックの影響の一つである急速な少子化と、その先にある人口減少社会が、人間の幸福観が変わる好機だとすれば、私たち道の者にとっては、陽気ぐらし世界に向かう、踏むべきプロセスの一つと捉え直すこともできるのではないだろうか。
(松本)