時報歌壇(11月24日号) – 植田珠實 選
巣ごもりによきかと受けし神様の
御用の白衣十着を縫う
名古屋市 伊藤紘美
寂しきは野菜作りを止めしあと
荒れた畑の草を取ること
日立市 高岡とみえ
挨拶され思わずあくびで返すなんて
はしたなかったマスクでよかった
伊勢原市 宇佐美正治
敷布団上げる足裏にやはらかし
われの体温ふふむ畳は
東村山市 加藤八重子
あと五年生きられますか十冊目の
五年日記買うか迷いて
川崎市 木村道治
久々にジョッキ交える歓送会
開放感と後ろめたさと
天理市 可児寛和
デイサービスもアクリル板で仕切られる
なじみの顔に会話も出来ず
市川市 小松富子
「いらっしゃい」おみせごっこする幼らは
「袋はもっていますか」と聞く
ふじみ野市 酒井笑子
麻痺の手を撫でつつ見あぐる病窓の
夜空にうかぶ片割れの月
宇部市 天野敬子
健やかな寝息の母がここにいて
無事に一日終わるを感謝
横浜市 及川秀代
妻の物届けて帰る吾の背を
秋の入日が温めてくれる
石川県 岩城康徳
クローゼットにワイシャツ、スーツ亡き夫の
一揃ひの果てなく侘し
生駒市 栄嶋享永
亡き夫のいつもはめてた腕時計を
大学生の孫にゆずりぬ
福山市 藤井光子
「ふるさと」を大正琴に弾く傍で
合わせて歌う認知症の夫
鳥取市 西村節子
老杉の根をのぼりゆく水の音
耳つけて聞くいのちの響き
呉市 月原光政
神苑に夏のにぎはひあらざりき
松木はおのが影に静まり
橿原市 神谷和美
選者詠
手にのこる母の湿りを握りしめ
斑な月のひかりを走る
【評】
伊藤さん―――一針一針心を込めて縫い上げられた十着が、白く輝く光を放っています。
高岡さん―――長年の畑仕事を諦めた切なさが、丁寧に抜く草の仕草から滲み出ています。
宇佐美さん―――独創的な、愉快なマスクの一首となりました。
新年号は、12月6日までの到着分から選歌。投稿は新年に関する短歌3首まで。お名前(ふりがな)、電話番号を付記のうえ、下記まで。
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