ヒューマンスペシャル – 「ボランティア・アワード」を受賞した ハワイの岩田タッド教司さん
たすけ合いの輪“常夏の島”に広げ
地域住民・医療従事者を支援コロナ下での諸活動に高い評価
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の観光地で旅行者が激減し、経済的に大きな打撃を受けている。日本人に人気の観光スポットであるハワイも、その一つ(コラム参照)。こうしたなか、ハワイ在住の岩田タッド教司さん(44歳・ホノルル港教会長)は先ごろ、地域住民や医療従事者らに対して精力的に支援活動を行ったことが高く評価され、NPO団体「AARP」(全米退職者協会)が主催するボランティアコンテストで「ボランティア・アワード」に輝いた。この賞は、特にコロナ下での地域貢献に尽力した人に贈られるもの。岩田さんは、その中でもファイナリスト5人のうちの一人に選ばれた。世界のリゾートアイランドで“たすけ合いの輪”を広げる、岩田さんの取り組みを紹介する。
「ハワイで暮らす人々が互いにたすけ合うことで、少しでも陽気ぐらしの姿に近づければ」
コロナ禍により、観光客で一年中にぎわっていた“常夏の島”の姿は一変した。繁華街は閑散とし、失業率も高まるなか、岩田さんは自分たちにできることはないかと考え、さまざまな地域貢献に“たすけ合いの心”で取り組んでいる。
助けられる有り難さ感じて
ハワイ生まれ、ハワイ育ちの日系三世。幼いころから少年会ハワイ団の鼓笛隊に入り、毎年のように夏の「こどもおぢばがえり」に帰参してきた。
「いま思い返すと、少年会員の『ちかい』にある『互いにたすけあって』という言葉に幼少からふれてきたことで、人をたすけることの大切さが身についてきたように思う」と振り返る。
ハワイの高校からアメリカ本土の大学へ進学。卒業後は地元に戻り、高校のカウンセラーを務めながら、生徒たちの相談に乗ってきた。
また、平成15年から5年間、ハワイ青年会の委員長を務め、18年にマウイ島にある部内のハレアカラ教会長に就任した。
同教会での生活を始めて1カ月が経ったある日。突然の暴風雨で教会の屋根が吹き飛ばされる被害に見舞われた。
雨が室内に降り込み、天井がいつ抜け落ちてもおかしくなかったが、現地に移り住んだばかりで地域住民と交流がなく、頼れる人もいなかった。困り果てていたとき、誰彼となく集まってきた近所の人が、教会の屋根に上って修理を始めた。雨風にさらされることをいとわず、自ら進んで助けてくれる近隣住民の行動に、感謝の思いで胸がいっぱいになった。
「15年経った今でも、あの日の出来事は忘れられない。助けられることの有り難さを身に染みて感じ、『私も人のために何かしなければ』という思いが一層強くなった」
今できることを見つける
5年前、ホノルル港教会の会長に就くと、教会の信者と共に、ごみ拾いやNPO団体と協力しての食料支援などに努めてきた。
昨年3月、ハワイで初めてコロナ感染者が確認された。街はロックダウンされ、教会建物も一時閉鎖せざるを得なくなり、信者が朝夕のおつとめや月次祭に参拝できない事態となった。
こうしたなか、岩田さんは今できる活動を模索。ハワイ全土がマスクや消毒液不足などの問題に直面する中で、ホノルルの繁華街でアジアンフードのレストランを経営する照屋・ジョン・ヒサオさん(58歳・同教会ようぼく)から、観光地の深刻な状況を聞いた。以前は観光客や地元の人たちでにぎわっていたレストランは、全店舗が営業停止し、地域住民は外食すらできなくなった。レストランと提携する農家は収入が減り、すでに仕入れた肉や野菜のほとんどが売れ残る窮状に陥っていた。
「“おたすけ”をさせてもらおう」。そう決意した岩田さんは、照屋さんと話し合いを重ね、行き場がなくなった肉や野菜を使って弁当を作り、地域の人たちが感染への恐怖を感じることなく購入できるように、ロックダウン中でも営業可能なドライブスルー方式でフードセールを実施することに。事前に予約を受け付けた人たちに車で教会まで来てもらい、8人前のファミリーセット約400人分の食料を提供した。
さらに、その売上をもとに、医療従事者やNPO団体の人向けに、新たな弁当を作ったり、防護用品を届けたりした。
「どんな状況でも自分たちにできることを見つけ、それを実践しただけ。私たちの活動によって、地元の人たちに笑顔が見られるようになった。すると、教会の信者さんだけでなく、地域の人たちからも『次はどんなことをするの?』という“期待の声”を聞くようになった。困っている人たちのために何かしたいという気持ちが、地域全体で強くなってきたように思う」
住民の推薦でノミネート
その後もNPO団体と協力し、小児がんで闘病生活を送る200人以上の子供たちとその家族の支援活動に従事。さらに、コロナ禍で葬儀場が閉鎖されたことを受け、教会施設を会場に、オンラインで葬儀を行ったり、教会の一角をコロナワクチンの接種会場として提供したりするなど、多岐にわたる活動を展開していった。
一方、岩田さんのもとにも思わぬ支援者が現れる。岩田さんの支援活動に共感したビジネスオーナーが、教会への支援を申し出たのだ。後日、オーナーと従業員たちが教会を訪れ、ドアの修理や床の張り替えを無償で行ってくれた。
こうしたなか、先ごろAARPが主催するボランティアコンテストで、岩田さんが「ボランティア・アワード」のファイナリスト5人のうちの一人に選ばれた。
AARPは、全米3800万人の会員を有し、50歳以上の人をサポート支援する団体。岩田さんは地域住民の推薦でノミネートされたのだ。
岩田さんがファイナリストに選ばれたことが、AARPのウェブサイトや地域のニュースレターに掲載されると、協力者が増え、さらに活動は広がっていった。岩田さんは、支援活動を通じて新たな仲間と出会うたびに、「コロナという大節を見せることで、神様は何らかのメッセージを私たちに下さっている。この節から、いつか必ず芽が出る。人さまが喜ぶように、今できることをさせていただこう」と思いを伝えてきた。
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岩田さんは「コロナによって、人々が協力して生活することの重要性を実感した人が増えたと思う。その輪が広がれば広がるだけ、支援活動も多様になり、困難を抱える多くの人たちに“たすけの手”が届くようになる。これからもハワイの地で“たすけ合いの輪”を広げていきたい」と話している。
文=杉田祥太郎
コラム – ハワイのコロナの影響
昨年3月、ハワイで初のコロナ感染者が報告された。ホノルルでは、クラスター発生の温床となりやすいバーやナイトクラブが閉鎖、レストラン内での飲食を禁止とする命令が出された。さらに3月25日からは、ハワイ州で外出禁止令が発出。観光業が主産業のハワイは、ロックダウンによって大打撃を受け、失業率は一時、29パーセントに上った(米労働統計局)。