天理時報2023年2月1日号8面
【第36話 遠くからもたらされた「贈り物」 – ふたり】前話のあらすじカンとツツは、お互いにいまの暮らしについて話した。ツツは、仕事のストレスから強い不安に襲われ、夜眠れなくなっていた。第35話 夜眠れない人がいる保苅青年は腕組みをして畑を見渡した。自家製の堆肥をたっぷり施した畑では、ズッキーニやゴーヤ、ナスなどの夏野菜が収穫のときを迎えていた。「ここの野菜はあまり形が良くない」。彼は真面目な口調で言った。「どことなくバランスが悪くて不格好だ。だから、かわいいのかもしれない。小さな子どもと同じで」「たしかに、あまりに均整のとれた子どもって、かわいくないかも」。ツツが笑いながら言った。「ちょっと虫食いしているけど、無農薬だから」保苅青年は収穫したばかりの野菜が入った段ボール箱をツツに渡した。「ありがとう」と彼女は言った。初対面であるはずの二人は、まるで古くからの知り合いみたいだった。「子どもを育てるのも、野菜を育てるのも、同じことかもしれないな」。しばらくして保苅青年は言った。「前にカンに話したことがあるけど、中学生のころから、どうして自分が生きているのかわからなかった。理由もないのに生きていたってしょうがない。そんなことを思い詰めて、なんとなくここへやって来た」「いまは?」。ツツは遠くを見たままたずねた。「贈り物のように感じる。どこか遠くから、もたらされたような気がする」農場から帰りの車のなかで、ツツは外を見たまま何か考え込んでいるみたいだった。「風を手でつかめそうな日がある」。彼女は誰にともなく言った。「今日はそんな気分」カンはハンドルを握ったまま、助手席のほうにちらりと目をやった。「いい言葉だね。贈り物って」田んぼでは稲の穂先が色づきはじめていた。その傍らに車を停めて、カンは胸のポケットから一通の手紙を取り出した。この街を離れたばかりのころ、ツツが彼に宛てたものだ。「わたしって、こんなだった?」。読み終わると、彼女はちょっと照れくさそうに言った。「まるで自分じゃないみたい」カンは戻ってきた手紙を丁寧に折りたたんで、元のように封筒に収めた。「でも、これがわたしだったんだ」彼女は遠いまなざしを田んぼのほうへ向けた。「もうすぐ稲刈りだね」作/片山恭一 画/リン, 【主将3年目「感謝の心」でチームを牽引 プロ野球千葉ロッテマリーンズ 中村奨吾選手 – ようぼく百花】写真提供=千葉ロッテマリーンズ広角に打ち分ける打撃と50メートル6秒の俊足、遠投115メートルの強肩を誇る二塁手であり、またキャプテンとして、プレーと精神面でチームを牽引する中村奨吾選手(30歳・千葉ロッテマリーンズ所属・西島分教会ようぼく・天理高校野球部OB)。マリーンズは1日から、恒例の春季キャンプに入る。◇地元のリトルリーグで野球を始めた中村選手は、父・優人さん(同ようぼく)の母校である天理高へ進学。1年生の6月、腰を痛めたことをきっかけに内野手から外野手へコンバートされたが、秋からレギュラーに定着。2年生の夏、3年生の春・夏と、3季連続で甲子園の土を踏んだ。最後の夏に向けては、内野手へのこだわりを見せ、監督にポジション変更を直訴。甲子園には三塁手として出場し、このとき「生涯、内野手」を誓ったという。「天理高校で学んだ感謝の気持ち、たすけ合いの心は今も公私にわたって意識している。多くの人たちのサポートのおかげで野球ができる現状を理解し、常に『感謝の心』でプレーしたい」と語る。ベストナインに選出名門・早稲田大学を卒業後、ドラフト1位指名を受けて千葉ロッテマリーンズに入団。プロ3年目の6月から三塁手のレギュラーに定着した。その年のシーズンオフ、かねて憧れていた井口資仁氏が新監督に就任。現役時代、球界を代表する二塁手として活躍した井口監督の指示で、二塁手へとコンバートされた。「一番やりたかったポジション。信頼される選手になりたい」と飛躍を誓い、翌シーズンは攻守両面で活躍。「マイナビオールスターゲーム」に初選出。同年、39盗塁を決めてパ・リーグ2位に。また、486捕殺を記録して二塁手のリーグ記録を更新し、「GG賞」を初めて受賞した。その後も活躍を続け、プロ7年目となる一昨年、チームキャプテンに選ばれた。中村選手は「以前から、若い選手に積極的に声をかけていこうという思いはあった。主将に指名され、より一層の責任を感じた」と振り返る。この年は、クリーンアップの3番を任され、打撃面でもチームを引っ張ると、自身初のベストナインに選出。二度目の「GG賞」にも輝いた。昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で、2017年6月からの連続出場が630試合で途切れるアクシデントもあったが、6月1日の東京ヤクルトスワローズ戦でプロ初の4番を任され、第1打席でホームランを放つと、プロ野球史上15人目となる「全打順本塁打」を達成した。シーズンオフには、自身の権利として取得した国内FA権を行使せず、来シーズン以降もロッテでプレーすることを決めた。チームの主将として3年目を迎えるなか、「球団本部長から『このチームで一緒に優勝したい』と言われたことが一番心に響いた。私自身も優勝したいという思いが一層強くなった。個人の目標としては、キャリアハイの成績を目指していく。それが達成できれば、おのずとチームも上位争いに食い込むことができると思う」と、来シーズンの飛躍を誓った。