医療現場が抱える課題 AIを使って解決したい – 話題を追ってスペシャル
2026・5/6号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。
独学でプログラミングを学び 中東最大の開発レースで優勝

天理中学校・天理高校出身の医師
三宅冬人さん
天理中学校・天理高校出身で、今年3月まで天理よろづ相談所病院の研修医として臨床研修を受けた三宅冬人さん(25歳)は、「生成AI」(人工知能)を活用して独学でプログラミングを半年間学び、昨年11月、ドバイで開催された中東最大規模のAIハッカソン「AI Genesis Hackathon」(コラム参照)に出場。ほかの出場者が複数人でチームを組むなか、三宅さんは単独で臨み、スマートフォンのカメラだけで患者の重症度を判定するという独創的なAI医療システムを制作。参加者約4000人の中から優勝に輝いた。研修医として医療現場で実地経験を重ねながら、最先端のAI技術を駆使して医療の課題解決のために奮闘する三宅さんの思いに迫る。
2022年11月にアメリカの企業OpenAIによる対話型AI「ChatGPT」が公開されて以降、生成AIは瞬く間に世界中へ広まった。生成AIとは、大量のデータを学習し、人間の指示に応じて文章や画像、音声などを自ら生み出す人工知能技術のこと。現在では、ビジネス、教育、金融、研究機関といった専門分野に留まらず、スマートフォン一つで誰もが簡単に文章や画像を作成できるという手軽さから、日常のさまざまな場面で活用されている。
三宅さんは、いわゆる“スマホ世代”で、スマートフォンは普段から使いこなしているものの、昨年4月にプログラミングの勉強を始めるまで、ほとんどパソコンを触ったことがなかったという。そんなパソコン初心者が、わずか半年間の独学で中東最大規模のハッカソン優勝を成し遂げた背景には、生成AIの存在があった。
祖父に憧れて医師の道へ
奈良県で生まれ育った。姉が天理中で吹奏楽をする姿を見て、同校へ進学した。そんななか、地元で開業医をしていた祖父に憧れて医師を志すように。「もともと勉強は得意ではなかった」という三宅さんだが、中学卒業のころから本格的に医師を目指して勉強を始めた。
大きな転機となったのは、天理高進学後の1年時に受けた数学の授業だった。
「当時の先生が教える数学がとても面白くて、それがきっかけで勉強にハマった」
以後、図書館で毎日自習したり、さまざまな参考書で勉強法を調べたりして、数学の勉強に明け暮れた。結果、60ほどだった数学の偏差値が、1年後に受けた模試で90へと急上昇した。
「数学で点数を取るために、どう勉強したらいいのかを考えるのがすごく楽しくて、気づいたら偏差値が30上がっていた」
その後、独自の勉強法を生かしてほかの科目の勉強にも励み、奈良県立医科大学医学部に現役合格した。
大学在学中は医学の勉強に加えて、医療費の仕組みに関心があったことから、当時、医療事務の資格で最も難易度が高かった「診療報酬請求事務能力認定試験」に独学で合格した。
6年間の学生生活を終えた三宅さんは24年、全国に先駆けてレジデント(研修医)制度を導入し、研修プログラムが充実している「憩の家」に就職。研修医としての生活をスタートさせた。
医療者が楽しく働ける社会に
「起きている時間は、ほとんど医学の勉強をしていた」
研修医として働き始めた三宅さんは、基本的な診療能力と医師としての資質を養うため、病院内の各種診療科を回りながら、患者の診療と医学の勉強に集中する日々を送った。
そうしたなか、医療現場では人・モノ・時間・情報などのリソースが不足するなどの、医療者だけでは解決できないさまざまな課題があると感じた三宅さんは、解決策を模索。思い至ったのが生成AIの活用だった。
「人をたすけたいという気持ちで、たくさん勉強して医師になったのに、医療者の努力だけでは解決できない課題に目の前を塞がれ、その気持ちが薄れていくのはもったいない。生成AIの活用が、そうした人を減らすことにつながるのではと思った」
研修医2年目になり、仕事にも少しの余裕が出てきた三宅さんは、初めてパソコンを購入。病院の当直室に泊まり込み、毎日の仕事が終わる午後6時ごろから日付が変わるまで、生成AIを駆使しながら独学でプログラミングを勉強した。
「ChatGPTに、『こんなものを作るためには、どうすればいい?』とか、分からないところがあれば『これはどういう意味?』など、ひたすら質問を続けるという方法で勉強した」
身につけた技術を使って実際に業務を効率化するためのシステムを構築する中で、生成AIが医療現場の課題解決に役立つと確信した三宅さんは、いつしか生成AIを強みとした医師になりたいと思うように。そこで、実績づくりにつながればとの思いから、昨年9月に東京で開催された「Claude Hackathon 2025 in Tokyo」にエントリー。ハッカソンでは技術者やデザイナーなどがチームを組むのが一般的だが、三宅さんは単独で出場し、準優勝した。
その後、指導医から「AIを医師として活用するなら国際的な実績を付けたほうが良い」とアドバイスを受け、昨年11月、ドバイで開催された中東最大規模のAIハッカソン「AI Genesis Hackathon」に単独で出場。ベテラン医師が顔色などの第一印象で患者の重症度を判断するプロセスをAIで再現するというコンセプトのもと、スマホのカメラで動画や写真を撮るだけで、患者の重症度を判定するアプリを制作。参加者4,000人以上の中から見事優勝を勝ち取った。
「現役の医師だからこそ気づける、医療現場のリアルな課題の解決に直結する作品を作ったことが評価につながったと感じている。今後は、こうした作品を実装できるように育てていきたい」
◇
三宅さんは昨年9月ごろから「憩の家」の院内で「AI勉強会」を開催。医師・看護師・事務スタッフなど約70人が参加した。アンケートでは、参加者の約9割が「AIを使えるようになった」と回答するなど、好評を博した。
「病院に生成AIを導入しようとしても、どんなリスクがあるか分からないので使えないという人が少なくなかった。生成AIを使ううえでの注意点などを知っていただき、少しでも院内で働く方々のたすけになればとの思いで開いた」
現在、福島県の病院で後期研修医として勤めている三宅さんは、「現在の私があるのは、天理中学校、天理高校から現在に至るまで、私のやりたいことに対して周囲の方々が前向きにサポートしてくださったおかげ。その背景には、天理教の人だすけの教えが生きていると感じている。今後は、医師としての経験をしっかり積み重ねながら、生成AIを使って、医療現場で働く人たちが少しでも楽しく働ける社会を実現していきたい」と語った。
(文=島村久生)
コラム ハッカソン
「ハッカソン(Hackathon)」とは、「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」を掛け合わせた造語で、プログラマー、エンジニア、デザイナーなど、ソフトウェア開発関係者がチームを作り、短期間で集中的にソフトウェアやサービスを開発し、その成果を競い合う開発レースのこと。革新的なアイデアの創出、IT技術者の教育や交流を目的として開催される。











