天理時報2021年5月30日号8面
特別寄稿村上和雄・筑波大学名誉教授を偲んで科学の視点から教えを世界へ発信今中孝信天理よろづ相談所病院「憩の家」元副院長親神様の存在とそのお働きを、生命科学の視点から世界へ発信し続けられた村上和雄先生が、去る月13日に出直された。ここに、謹んで哀悼の意を表します。村上先生の研究者としての業績はあまりにも偉大で、枚挙にいとまはないが、お道の信仰をもつ科学者として、世の人々に常に訴えかけられたのは次の点にあると思人間をはじめとするすべての生物の設計図は基本的に同じで、遺伝子を構成する4種の文字(AGTC)で書かれていること。生命の起源をたどると1個の原始細胞に行き着き、そこから人間へと進化してきたこと。人間の遺伝子の働きは、心づかいによってそのスイッチがオンになること。人間の膨大な遺伝情報を極微の空間に書き込み、しかもそれを一刻の休みなく精緻に働かせている元なる親の存在を、「サムシング・グレート」(大いなる何ものか)という表現で一般の人々に分かりやすく伝えたこと。まさに、親神様のメッセンジャーとしての信念を貫かれた生涯であった。たとえば、こんなトピックがある。1986年に先生の著作『人信仰科学』(道友社刊)が世に出された。99年には『サムシンレート大自然の見えざる力』と改題して別の出版社から刊行されると、一躍ベストセラーとなり、14カ国で翻訳出版された。このこと一つ取っても、世界中の多くの人々が元の親の存在を知り、元の親が教える、人間が幸せになる真の生き方(陽気ぐらし)にふれる一つのきっかけになったのではないか。ところで昨年、私が連載していた『陽気』誌の拙文を読まれた村上先生が、自身が連載中の月刊誌『致知』での対談を提案された。今年の3月号で企画が実現し、先生と私はリモート対談を通じて「新型コロナはサムシング・グレートからの警鐘である」という認識を共有した。また対談中、村上先生は「真の健康は単に病気がないというだけでは成り立たない」として、「たましい」の健康にも目を向けるべきと指摘された。そして「たましい」は個人レベルを超えて世界の人々とつながっており、その元であるサムシング・グレートともつながっている。そうであるならば、「たましい」の健康を保つには、サムシング・グレートときちんとつながっていなければならない、と述べられた。ようぼく医師である私も同意見で、これを踏まえ「大いなる存在に生かされ命を育んでいるという自覚を取り戻し、生き方を見つめ直すことが、ウイルスを終息させる一番の早道なのでは」との見解を示した。そして、村上先生の遺稿となった『致知』6月号の記事では、「人間の究極の願いは幸せになること」と題して、あらためて人生における「たましい」の健康の大切さを訴えられた。私はこれを、先生からのメッセージと受けとめている。人間は親神様によって生かされているという真実と、人間が幸せになる真の生き方を、科学の視点から世の人々に説き続けられた村上和雄先生のご遺志を、ようぼく医師として引き継いでいきたいと思う。2006年、著書『生命の暗号』の英訳出版を記念し、アメリカ西海岸6都市で村上氏の講演ツアーが行われた(ロサンゼルスで)文芸連載小説ふたり星の降る夜は作/片山恭一画/リン第25話闇に消えた二つの影その夜、ホタルは夢のなかにまで飛んできて黄緑色の光を点滅させた。どうやらわたしの夢を美しく照らしてくれるつもりらしい。宙を舞う光に誘われるようにしてフウちゃんが現れた。「そろそろママを迎えにいく時間だよ」ツツは黙ってうなずいた。二人はゆっくり棚田の道を下りはじめた。大きな影と小さな影。このまま行かせてはならない、というおかしな気持ちになった。二人が遠ざかっていくにつれて、まわりを飛び交うホタルの数は少なくなっていく。最後の光が地面に向かって細い光の線を引きながら消えてしまうと、大小二つの影も闇に溶け込むようにして見えなくなった。夢から飛び出したホタルが一匹、耳にとまっている。わたしの夢のなかは、ホタルにとっては狭すぎるらしい。くすぐったくて目が覚めた。まるで世界が裏返しにされたみたいだった。しばらくは夢のつづきにいる気がした。カンの部屋だった。鼻先にベッドの脚がある。あの子はベッドを抜け出して窓の外を見ている。どきどきという心臓の音が聞こえていた。カンの心臓の音かもしれない。それともわたしの心臓だろうか。犬の場合は、危険が迫っているときに心臓がこんな音をたてる。「どうしたんだ?」のどの奥から鼻から抜ける低い声でたずねた。普通の人には「クーン」としか聞こえないだろうが、動物の言葉を聞き取ることのできるカンは振り向いた。その目が何かを訴えている。いつもと様子が違う。再び窓の外を見ている。誰かを見送っているみたいだった。わたしは自分が夢のなかで見送ったもののことを思い出した。それは暗闇へ消えていく二人の後ろ姿だった。頭のなかをホタルが舞っている。再夢に引き込まれる心地がして一つの情景が浮かんだ。雨のなかを車が走っていく。向こうからもう一台の車が近づいて、二つの車は急なカーブへ近づいていく。雨は激しく降っている。そのとき不意に未来がやって来た。わたしにも一瞬のひらめきのようにしてわかった。片方の車に乗っているのは、深夜の仕事を終えたサユリさんだ。彼女を迎えに行ったツツとフウちゃんも一緒に乗っている。カンはじっと窓の外を見ている。そういうことなのか。あの子の背中に向かって、わたしは悲痛な声で訴えた。「どうするつもりだ?」もしカンが普通に言葉を話せたら、告を与えることはできるだろう。雨の日の深夜に車を運転してはならない。かならず大変なことが起こるから。しかしフウちゃんやサユリさんが本気にしたかどかわからない。言葉にすると、いかにも馬鹿げたことに聞こえる。人間の言葉は理解できることだけを伝える。わたしたちが夢で目にしたものは理解を超えている。夢だけがリアルだった。「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。