天理時報2022年10月19日号8面
【第28話 暗い森のなかで – ふたり】子どもを探していた両親は、夕暮れ間近の神社でわが子を発見した。手にキツネのお面を持っている。神社の柱に掛かっていたという。一人の幼児が一緒だった。この子については、「救出」と言ったほうがいいかもしれない。泣きながら走ってきた子は、たどり着くなり、ぐったりしてしまった。母親は携帯電話で子どもが見つかったことをのぶ代さんに報せた。電話でのやりとりから、一緒にいた幼児が「えほんの郷」の子であることがわかった。様子がおかしいことを告げると、のぶ代さんと保苅青年が駆けつけてきた。その夜、新太は病院のベッドで浅い眠りを漂いながら夢を見ていた。暗い森のなかを歩いている。いつのまに暮れたのだろう。気がついたときには、あたりはびっくりするほど暗くなっていた。帰り道がわからない。迷ってしまったらしい。月が出ているから大丈夫だと思ったが、その光は森のなかまでは届かない。木立の奥に何かいた。じっとこっちを見ている。キツネかもしれない。いや、キツネはお面だ。お面を被った子どもが追いかけてきたのだ。どうしてあんなことをしたのだろう? おどかすつもりだったのだろうか。悪い子は、両親にうんと叱ってもらうといい。イタチかもしれない。新太はイタチという動物のことは知っていたが、実際に見たことはなかった。農場の鶏がイタチに襲われたことがある。新太が小屋にやって来たときには、殺された鶏はすでに処分されており、彼が見たのは小屋のなかに散乱している羽だけだった。それでもイタチが凶悪な動物であることは理解できた。いま彼を待ち構えている相手は一匹ではない。何匹もいる。数えようとすると、どんどん増えていく。集まってきているのだ。なんのために? 森に迷い込んだ子どもを襲うために違いない。これぞ恐怖だった。いままで出会ったことのない本物の恐怖だ。声を上げそうになるが、なんとかがまんした。声を出すと襲ってきそうな気がした。ゆっくりと回れ右をして、来た道を引き返しはじめた。否が応でも足取りは速くなる。とうとう駆けだした。小屋中に散らばった鶏の羽が脳裏に浮かんだ。あんな目に遭うのはまっぴらだ。どうしてこんなところへ来てしまったのだろう。後悔しても遅い。いまは逃げ延びることだけを考えよう。動物たちは追ってくる。だが襲ってはこない。やっぱり仲間が集まるのを待っているのだろうか。充分な数になったところで、一斉に襲ってくるつもりかもしれない。新太は駆けつづけた。心臓が苦しかった。息ができない。気を失ってしまいそうだ。そうして夢のなかで彼は本当に気を失った。作/片山恭一 画/リン, 【往時の稔りの風景に思い馳せ – おやさと瑞穂の記 その6】おやしきの北東には、教祖のご在世当時の風景を彷彿させる豊かな田園風景が広がり、親神様にお供えするお米が昔ながらの方法で栽培されている。今回は「収穫前の風景」を紹介する。10月に入ると、たわわに稔った稲穂が頭を垂れ、田んぼ一面が黄金色に染まり始めた。教会本部管財部の担当者・森本孝一さんに聞くと、今秋のおやさとの田んぼは、心配していた台風の影響も小さく、お米の出来はまずまずとのこと。田んぼの真ん中には、いつの間にか案山子が立てられていた。台風の脅威は免れたが、今度は、稔ったお米を狙ってスズメが毎日のように飛来する。収穫までは、まだ安心できない。天理小学校の児童が作った案山子ニッコリ笑顔のユニークな案山子は天理小学校児童の手作りによるもので、今年は6体寄贈された。春の田の整備から始まり、苗代づくり、田植え、夏の間の修理と、これまでの丹精の過程を振り返ってみると、「粒々辛苦」という言葉が思い出される。私たちが頂くお米の一粒一粒が農事をされる方々の苦労の結晶であり、親神様の妙なるご守護の賜物なのだ。思わず、夕日に向かって、目の前の稔り豊かな風景を丸く切り取るように、みかぐらうた一下り目八ッの「ほうねんや」の手振りをしてみた。天然自然に遍く行きわたる親神様のご守護を感じて、有り難さで心が満たされる。みかぐらうたは、「九ッ こゝまでついてこい」「十ド とりめがさだまりた」と続く。「取り目」とは、収穫量のことである。このお歌と手振りは、お米づくりもここまで来て、ようやく十分な収穫ができる目途が立ったという安堵と喜び、そして感謝の心を表しているのではないかと思った。田園の向こう側には、おやさとやかたが視界に入るが、ここからの豊かな稔りの風景は、教祖のご在世当時から変わらないであろう。つとめ場所で教祖が直々に「てをどり」を教えられた当時に想いを馳せる。10月中旬に差しかかると、いよいよ稲刈りが始まる。この田んぼでは、田植えがそうであったように、稲刈りも人力で行う。次回は、多くのひのきしんの手が集まって賑やかに行われる収穫の様子を紹介する。(文=諸井道隆)下記URLから、「おやさと瑞穂の記」の過去記事を見ることができますhttps://doyusha.jp/jiho-plus/pdf/oyasato_mizuho.pdf