天理時報2021年1月1日号4面
スペシャルインタビュー「集中・執念・我慢」で再び頂点天理大学柔道部OB大野将平選手世界的規模で猛威を振るう新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年夏に開催を予定していた「東京オリンピ「ック」が約1年延期されることが昨春、決定した。現在、代表選手たちは、コロナ禍のさなかで五輪開幕に向けて研鑽を積んでいるここでは、2016年のリオデジャネイロオリンピック柔道男子73㌔級で金メダルを手にし、東京大会日本代表にも選ばれている大野将平選手に、2大会連続出場への意気込みを聞いた。東京オリンピクの意気込みを聞く「一日一善」で徳を積む2016年のリオ五輪(1)では、初出場で金メダルを獲得しました。前回大会を振り返って、どんなことが印象に残っていますか。リオは遠かった…..…..ですかね(笑)。オリンピックでの試合自体は、それまでの国際大会の一つという感覚だったこともあり、「特に」というものはありませんでした。また当時は、とても慌ただしくて、一つひとつの出来事をちゃんと覚えていないのです。ありがたいことに、天理を含め3回ほどパレードをやっていただきましたし、とても忙しかったので。―リオでは、ごみを拾うなどの「一日一善」を実行していたそうですが、その思いを聞かせてください。当時は、「勝負には運の要素があるが、自分に圧倒的な実力があれば相手の強運にも負けない」という覚悟で戦っていました。でも、それだけではまだ足りない。そんなとき、リオの代表に決まり、天理大学の深谷善太郎理事長と食事をした際に、「君は目に見える世界ではナンバーワンであり、金メダルに一番近い男だといわれている。しかし、世の中には目には見えない世界があり、思わぬ病気やけがで、力がありながらも発揮できなかった選手が山ほどいる。一つ、目に見えない世界にも心を向けて、一日一善、ごみ拾いでいいから、徳積みのひのきしんをしてはどうか」と教えていただいたんです。それから、ごみ拾いやトイレのスリッパをそろえるなどの一日一善を続けました。―五輪後、1年ほど休養期間を取りましたが、いったん畳から降りたことで新たな発見などはありましたか。正直言って、休養はあまり好きじゃなくて、その期間も稽古は続けていました。ただ、けがで十分にできない時期でもあったので、そんな中でも自分がやるべきことをやろうと動いていましたね。その意味では、天理大学大学院(2)へ進んで、これまでとは違う視点から柔道を学び直せたのは新鮮でした。武道とスポーツの違い、現在の柔道のルールなど、もちろんオリンピックのことも、いろいろと調べました。大学院で学ぶ中で、「柔道を長年やってきたけれど、あまりにも存在が近すぎて、分かっているようで実は分かっていなかった」ということが分かりました。天理についても同様で、まだまだ勉強不足だったと分かったのです。一方、天理で磨いた自分の柔道の技術が、古き良き日本の柔道、過去の偉大な先輩たちの技術に近いものだと分かり、率直にうれしく思いました。これまで自分がやってきたことが間違いではなかったと、確信できたのです。そんな大野選手が柔道で大切にしていることは何でしょう。「集中執念我慢」ですね。監督(穴井隆将・天理大柔道部)から教えていただいた、柔道の、特に試合における三つの重要な言葉です。リオの試合でもそうだったように、試合の畳に上がるときは、ボソボソとおまじないのようにこの言葉をつぶやいています。これからの競技人生で体現したい柔道の形とは。まだ、「これだ!」という決まった形は捉えられていません。柔道はルールが細かく変わるので、それに合わせて柔軟に変化や進化をしなければならないと思っています。その中でも、自分の軸はずらさない。理想の形としては、強くなければならないし、同時に美しくあらねばならない。となると、まだまだ「これだ!」というものには届いていないと感じています。いまの自分は、まだ理想の形ではないというのは確かです。東京での進化が楽しみ一昨春は、コロナの影響で東京オリンピックが1年延期になるなど、さまざまな影響を受けたと思います。自粛期間中、どのように過ごしていましたか。練習できない時期はもちろんありました。けれども天理では、トレーニングを中心に汗をかいていました。柔道の練習はできませんでしたが、そこは割りきって、体力づくりに努めていました。特に不安はありませんでしたよ。来るべき日に向けて準備する、ただそれだけを考えていました。そんななか、これまではトレーニングとしてやっていたウエートリフティングを、自分なりに“競技”と捉えて取り組んでいました。ウエートを挙上する動作で得られる瞬発的な動きは、柔道と感覚的に近いこともあり、柔道で汗をかけないのなら今は違う競技の力を借りて、気持ちをリフレッシュさせながら、体をしっかり鍛えていこうと考えていましたね。最後に、2021年夏に開催予定の東京オリンピックに向けて、いまの意気込みを聞かせてください。オリンピックのプレッシャーは全く感じていません。今回、日本代表として男女混合団体戦(3)にも出場を予定していますが、個人戦への意気込みと特に変わりはありません。自分のやるべきことは、「全力で金メダルを獲りにいく」、ただそれだけです。もし予定通り開催されるのであれば、ぜひ柔道の聖地・日本武道館で、五輪連覇と男女混合金メダルで日本柔道界に貢献したい。これに尽きます。そして、その後、リオと東京の違いを冷静に比べて、自分自身の進化がどうであったかを純粋に楽しみたいと思います。1大野選手の優勝は、日本柔道男子に2大会ぶりの、また同大会における日本柔道勢初の金メダルをもたらした。また天理勢としても、アテネオリンピックの柔道男子・野村忠宏氏(天理大OB)以来、3大会ぶりの快挙となった。※22019年修了。修士論文のテーマは、得意技の「大外刈」。3これまで個人戦のみだったオリンピックの柔道に、東京五輪から新たに導入されることになった団体戦。男女3人ずつの6人制で戦う。【おおの・しょうへい】1992年、山口市生まれ。大原大教会ようぼく。中学・高校時代に柔道の名門私塾・講道学舎で鍛え、天理大へ。大学2年時には世界ジュニア柔道選手権大会、3年時には講道館杯全日本柔道体重別選手権大会、グランドスラム・東京での優勝を経て、4年時の世界柔道選手権大会では、6試合オール「一本勝ち」で初優勝。その後も各種国際大会で優勝に輝いた、日本柔道界を牽引するトップアスリート。旭化成所属。