「日米同盟の深化」とは何か – 手嶋龍一のグローバルアイ20
岸田総理はワシントンでの日米首脳会談で、力による攻勢を強める中国を念頭に、敵基地へのミサイル攻撃の能力を保有するなど日本の防衛力を飛躍的に高める方針を伝えた。対するバイデン大統領は、岸田政権が訪米に先立ってまとめた「安保関連の三文書」にふれ、「我々は軍事同盟を現代化している」と、太平洋同盟が深化したと高く評価してみせた。
岸田総理はバイデン大統領に直に伝えた「対米約束」を実行するため、米国からトマホーク・ミサイルなどを大量に購入し、大型増税によって防衛費を5年間で43兆円に増やし、「日米同盟の抑止力と対処力を一層高める」と表明した。
“バイデンのアメリカ”はいま、ロシアと戦うウクライナを支援し、同時に刻々と緊張が高まる台湾有事にも備えて、苦しい二正面作戦を強いられている。それだけに東アジアの要であるニッポンが、台湾の武力統一の旗を掲げる“習近平の中国”に対抗し、米国の足らざるところを埋める決意を歓迎したのは至極当然だろう。だが、一方の米国は、日本にミサイルなどの装備品を提供し、離島防衛にあたる海兵部隊を沖縄に新設することなどは明らかにしたが、日米同盟の強化に自らがいかに取り組むか、大きな戦略を少しも示さなかった。米政府の側には訴えるべき内容が乏しく、バイデン大統領は共同の記者会見さえ開こうとしなかった。
戦後の日米安全保障体制は、日本が在日米軍基地を提供し、その見返りに米軍が精強な攻撃力を駆使して日本の領域を防衛し、台湾と朝鮮半島の有事に備えることが柱だった。しかし米国内には「日本は防衛分野でタダ乗りをしている」という故なき批判が根強かった。ところが、いまや米国は日本の軍事力の強化を頼りに、台湾有事に備える体制を整えようとしている。バイデン大統領が首脳会談で指摘した通り、日米の「軍事同盟」は強化されていくだろう。ウクライナ戦域に力を割かれ、陰りが見える米軍の役割を日本が肩代わりする“片務性”が芽生え始めている。「同盟の深化」などと持ち上げられて浮かれている時ではない。