攻勢に出る習近平外交の行方 – 手嶋龍一のグローバルアイ23
習近平主席率いる中国外交がにわかに勢いづいている。フランスのマクロン大統領は6日、大手の企業経営者50人余りを引き連れて北京を訪れた。迎えた習近平主席は、航空機メーカーの「エアバス」から160機を購入し、航空宇宙や原子力発電の分野で新たな中仏協定を取り交わした。さらに豚肉などフランス産の農産物の輸入を大幅に増やすと約束し、農業大国でもあるフランスに配慮して大盤振る舞いを演じた。国家の指導者自らが北京を詣でる現代の”朝貢外交”には、それなりの対価で報いる姿勢を示したのだった。
これに先立つ3月10日には、険悪な関係だったサウジアラビアとイランの代表を北京に招き、国交を回復させる和解を仲介してみせた。湾岸戦争以来、サウジアラビアは超大国アメリカに寄り添ってきた。それだけに、中東最大の産油国が対イラン外交の調停を中国に委ねたことにバイデン政権は言い知れぬ衝撃を受けている。さらに、習政権は、台湾の蔡英文総統の訪米を睨みつつ、野党・国民党の馬英九前総統を中国に迎えている。来年には台湾の総統選挙を控えており、対中関係の改善に前向きな国民党の政権復帰を後押しする布石であることは言うまでもない。
積極的な外交を展開する習政権の最大の狙いは、激戦が続くウクライナ戦争の調停だろう。すでにロシアとウクライナに早期停戦を呼びかけ、交渉のテーブルに就くよう求める12項目の和平案を公表している。占領下にある領土の扱いには具体的に触れていないが、プーチン大統領も真剣に検討すると中国への配慮を滲ませる。ウクライナ戦争がさらに長期化して世界経済への影響が大きくなれば、中国の仲介に期待する声が高まる可能性がある。だが、習政権が和平への調停に成功すれば、台湾統一でも北京が主導権を握ることになってしまう。それだけに、来月、広島で開催されるG7サミットで議長国をつとめる日本の役割は重要だ。全領土の奪還を譲らないゼレンスキー政権の主張を単に支持するだけに終わらず、ロシアの苦境にも目配りをして、一日も早い停戦の機を探るべき時だろう。