国連は殺戮を止められるか – 手嶋龍一のグローバルアイ12
「プーチンの戦争」を前に国際連合は立ちすくみ、為す術を知らないように映る。ウクライナの要衝マリウポリの製鉄所の地下壕にはいまも多くの市民が立て籠もり、子供たちや女性が砲弾の脅威にさらされている。集団虐殺を意味する「ジェノサイド」だという声があがっているが、国際の平和と安全に責任を負う国連安保理は、ロシアへの非難決議ひとつ採決できない。常任理事国のロシアが拒否権を行使して決議案をことごとく葬り去ってしまうからだ。
安全保障理事会は加盟国に法的拘束力のある決定を科すことができる国連唯一の機関だ。だが常任理事国の椅子は、第二次世界大戦の五大戦勝国にして五大核保有国である米・英・仏・露・中が独占してきた。これらの一国でも拒否権を発動すれば、いかなる決議案も通らない。ウクライナ各地で起きている惨劇を目の当たりにしながら、平和の殿堂は十分な機能を果たせずにいる。こうした現状を変革しようと、国連加盟国からは、常任理事国が拒否権を簡単に行使できないよう改革を求める動きが出ている。だが、常任理事国は既得権益を手放さないだろう。
国連改革は日本にとってとりわけ緊要である。経済大国ニッポンは、トップクラスの資金拠出国でありながら、いまだに常任理事国になれずにいる。戦後の日本は意図して長距離ミサイルも核弾頭も持たなかった。それだけに常任理事国の名誉ある椅子を占めて、より大きな発言力を確保することがなんとしても必要なのである。常任理事国の議席なくして巨額の財政負担なし。これこそが民主主義の原則だ。
中国が武力による台湾併合に乗り出そうとした時、日本が常任理事国として拒否権を持っていれば、中国の動きをより効果的に牽制できるはずだ。そして唯一の被爆国である日本は、核を持たない国々を束ね、核を脅しに使おうとする国々に毅然として対抗していかなければならない。国連改革の道のりがいかに険しくとも、既存の常任理事国がどれほど抵抗しても、けっしてあきらめてはならない。不屈の意志で国連の常任理事国の椅子を勝ち取るべきだろう。