子供の「心を育てる語り」 教師×作家×講演家 渡辺道治さん – ようぼく百花
人たすけたらわが身たすかる――。
「困難な問題を抱える子供たちが自分の足で立ち上がるには、自分のことばかり考えるのではなく、誰かのために行動することが重要だ」
愛知県にある私立小学校で教員として働く渡辺道治さん(38歳・龍陽分教会ようぼく・愛知県瀬戸市)は、教員に向けた本を相次いで出版。また、各地の学校や病院、企業などで”心を育てる人材育成”を語る講演家としての顔も併せ持つ。
北海道の教会で生まれ育った。妹や弟に勉強を教える中で、父から教え方を褒められたことが教職を志すきっかけに。天理高校で学び、北海道教育大学を卒業した平成18年、天理小学校で教員としてのスタートを切った。
「教育を通じて”おたすけ”をしたい。教育現場で一番困っている人に、たすけの手を差し伸べるのが私なりのおたすけ」との思いから、毎年、学校内で最も困難な問題を抱える児童のクラス担任を希望。不登校などの問題に真正面から向き合ってきた。
こうしたなか、24年、友人から依頼を受け、北海道教区帯広支部青年会で初めて演壇に立った。この話が大きな反響を呼び、口コミで教内外から依頼が寄せられるように。これまで大学・企業・病院などで200回を超える講演を行ってきた。
“言葉の力”の大きさ実感
「教外の小学校で経験を積みたい」との思いが高まり、29年、札幌の公立小学校の教員へ転職。着任時、いじめや不登校、暴言・暴力など、前年の担任が病休に追い込まれるほど荒れきった学級の姿を目の当たりにした。
「天理小学校のように、おつとめの時間がないこの子たちは、一体どこで心を整えているのだろう」と思ったという。
天理小学校での経験から、教師の語りが児童の行動や言動を変え、生き方にまで影響を与えることを確信していた渡辺さんは、まず機を見て根気強く語りかけ、一人ひとりを注意深く観察して褒めることを心がけた。
また、悪口が飛び交うクラスでは、言葉の使い方を整えることに力を注いだ。「朝の会」では「悪口を言うと、脳から『ノルアドレナリン』という毒が出て、ものを覚えたり勉強したりする力を弱くして、自分の体も傷つける。反対に良い言葉を使うと『βエンドルフィン』という、病気や痛みをやわらげる物質が出る。みんなが口から出す『言葉』には、魔法のような力がある」と、小学生が分かるように易しい言葉で語りかけた。
その結果、相手を思いやるような明るい言葉が交わされるようになり、少しずつクラスの雰囲気が良くなっていったという。
また、教えのエッセンスを分かりやすく伝えるために「見えない徳の積み方」や「利他的に生きる」ことなどを折を見て伝えてきた。すると、子供たちの行動がより良い方向へと変化していった。なかでも「人は自分のためではなく、誰かのためなら力が出る」というメッセージは、子供たちに「友達を応援して助ける行いが自分の力になる」との気づきを与え、クラスに助け合いの輪が生まれていったという。
こうした数々の事例をもとに、渡辺さんは執筆活動を継続。『心を育てる語り』(東洋館出版社)を今年2月に上梓した。
4月から愛知県の私立小学校で教員を務める渡辺さん。「”ようぼく教師”として、全国の教員のモデルとなるような姿を目指し、学校教育の現場をより良いものにしていきたい」と話している。
プロフィール
渡辺 道治 (わたなべ みちはる)
昭和58年、北海道生まれ。平成18年から小学校教員として勤務。25年、JICA教師海外研修にてカンボジアを訪問。28年、グローバル教育コンクール特別賞受賞。累計200回を超える講演活動に取り組む傍ら、教員向けの著書をこれまで4冊出版。北海道新聞クイズ記事や、教育雑誌記事を執筆中。