障害のある人の挑戦を後押ししたい 全盲者として初の「そば打ち初段」認定 大谷道弘さん – ようぼく百花
2024・5/29号を見る
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「そば打ちを通じて、障害のある人の挑戦を後押ししたい」
企業の従業員などに理療の施術やセルフケア指導などを行う「ヘルスキーパー」として働く大谷道弘さん(48歳・天野分教会ようぼく・大阪市)。昨年11月「一般社団法人 全麺協」のそば道段位認定会に挑戦し、全盲者として初めて初段に認定された。同認定会は、そば打ちを職業としない人を対象に、そば打ち技術などを審査し、段位を付与するもの。
現在、視覚障害者や興味のある人に向け、視覚に頼らない独自のそば打ち体験である「ブラインドそば打ち」の普及活動に取り組んでいる。
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信仰家庭に生まれ、天理教校親里高校(当時)へ進学した。高校2年時、左目に違和感を覚えて受診したところ、「球後視神経炎」と診断された。
その後、徐々に視力が低下し、翌年に左目を失明。1年半後には、右目もほとんど見えなくなった。
大節に直面し、藁にもすがる思いで修養科を志願。おぢばであらためて教えを学び、ひのきしんに汗を流した。
修了後、両眼失明のなか、自身にできることとして「ヘルスキーパー」を志した。以後、大阪府立盲学校(当時)へ通い、「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」の国家資格を取得。「ヘルスキーパー」として人々の健康維持などに寄与してきた。
達成する喜びを味わい
一昨年11月、東大阪市にある「手打ちそば庵」の店主・吉村昭範さん(37歳)と出会った。そのとき、吉村さんから「そば打ち体験をやってみないか」と声をかけられた。
「『全盲の自分にできるのか』と思ったが、いろいろ考えず、とにかくやってみようと」
そば打ちは、水とそば粉を混ぜてこねる「水回し」、そば粉を薄く延ばす「延し」、延ばした生地を切る「切り」の三つの工程がある。店に併設されている道場で、吉村さんの指導のもと初めてそば打ちを体験した大谷さんは、すべての工程を終えるまでに、一般のそば打ち体験者の3倍ほど時間がかかったという。「形は良くなかったが、食べてみると、そばのおいしさに感動するとともに、自分で打った達成感が込み上げてきた。この喜びを多くの人に味わってもらいたいと思った」
以後「全盲者も、そば打ちができることを証明し、この感動を広めたい」と、そば道段位初段を目標に、2週間に一度、勤務後に道場で練習を重ねた。
迎えた初段位認定会当日、周囲の受験者が素早く手を動かす音に焦りを感じつつも、「練習の際に、吉村さんが付きっきりで指導してくれたことを思い出し、平常心を取り戻すことができた」。成績発表では合格基準をクリアし、見事に初段位を取得した。
この話が知人たちに広まり、「そば打ちを体験してみたい」という声が寄せられたことから、「ブラインドそば打ち」体験を道場で初めて開いた。さらに、そば打ちの練習や「ブラインドそば打ち」体験の動画を自身のYouTubeチャンネルにアップして、広く活動を紹介している。
「大節に心を倒しそうになったこともあったが、そば打ちを通じて、できないことに不足するよりも、いまできることを増やすことが大切だと学んだ。これからも、そば打ち体験を通じて多くの人々に達成する喜びを味わってもらい、障害のある人のチャレンジを後押しできれば」と話す。