不登校の子供に寄り添う“生きる力”伸ばす学び場 フリースクール「みんなの教室」代表 髙部春菜さん – ようぼく百花
現在、全国の小中学校の不登校児童・生徒数は19万人以上に及ぶとされる。その背景には、交友関係のもつれや複雑な家庭環境などさまざまな問題があるという。こうしたなか、不登校の子供たちの“学び場”として、大分県別府市内で初のフリースクールを立ち上げた、元小学校教諭の女性ようぼくがいる。彼女がチャレンジする、子供たちの“生きる力”を伸ばす教育とは――。
「すべての子供たちの味方でありたい」。こう話すのは、別府市のフリースクール「みんなの教室」代表を務める髙部春菜さん(30歳・本部直属安東分教会ようぼく・同市)。
JR別府駅から西へ徒歩5分。県道沿いに位置する本部直属安東分教会を会場とする「みんなの教室」では、メーンのフリースクールのほか、英語と図工のクラス、学童保育などが週4日開かれ、現在30人を超える小中学生が通っている。
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午前10時、フリースクールを利用する小学生たちが教会の大広間へ。早速、「今日、自分がやりたいこと」を用紙に記入し、自主学習の時間が始まった。
「『みんなの教室』では、子供たち一人ひとりが“やってみたいこと”を実地に体験し、その中から学びを得ることを大切にしている」と髙部さん。
どんな子供でも集まれる場所
5人きょうだいの長女として育った。幼少から少年会活動に参加し、教会に出入りする“お兄さん・お姉さん”に面倒を見てもらった。やがて自ら年下の子供たちのお世話をするようになった。
中学生のとき、進路学習の授業をきっかけに「『人だすけにつながる仕事に就きたい』と考えるようになった」という。また、子供と関わるのが好きだったこともあり、小学校教諭を目指すように。大学卒業後、別府市内の小学校の教壇に立った。
念願だった子供と関わる仕事に就いたが、ほどなく児童が学校生活や家庭内でさまざまな悩みを抱えていることを知った。なかには、不登校に陥る児童も。子供たちをたすけたい一心で、不登校児の自宅を訪問したり、教会の神殿で親神様に相談したりする日々を送った。
家庭訪問を続けるなか、やがて、保護者が子供と一緒に友達との関わり方を考える時間を持つようになり、髙部さんと共に児童に寄り添えるようになった。
「児童と直接関われば関わった分だけ、表情が明るくなっていく。このことに気づいたとき、もっと子供たち一人ひとりに寄り添いたいとの思いが芽生え、どんな子供でも集まれる場所をつくりたいと思った」
そんな思いを父親の髙部正春会長(58歳)に伝えたところ、「教会を会場に始めてみれば」と後押ししてくれた。
こうして6年間務めた教員を退職し、2020年6月「みんなの教室」を開設。9月には、学校教育に代わる学習の場として、県と市の教育委員会と連携したフリースクールとなった。
“やってみたいこと”を体験して学ぶ
当初から子供たちの自由度の高い体験を重視してきた。「ゲームの実況動画を作ってみたい」「ファッションモデルになってみたい」など興味のあることを体験し、それを学びに“変換”するのだ。
この方針は、大学時代に留学したアメリカの教育現場で学んだことを参考にしている。
米国ポートランド州立大学に留学中、美術、音楽、ダンスなど芸術全般を教育プログラムに組み込む小学校でのボランティア活動に参加した。そこでは創作活動を学びに“変換”する教育が行われており、目を輝かせて創作に取り組む児童たちの姿に衝撃を受けたという。
「これまでの学校教育の概念が覆った。一般教養科目に限らず、どんなことでも児童の学びに変換できると知った」
ところが、フリースクールを始めたばかりのころは、同世代の仲間との関わり方が上手くない子供への対応に悩むことが少なくなかった。そのたびに家族に相談し、神殿にぬかずいて、自らの至らなさを反省した。
そんななか、あるとき一人の子供が、「陽気ぐらし」と揮毫された皿を見て、「皆、仲良くせんといけんのやろな。あれに書いとるけんな」とつぶやいた。
「子供のためにあり続けたいと願う中で、思わぬタイミングで子供たちの心が変化していった。自分がどうこうしようと考えずに、精いっぱい寄り添えばいいんだと実感した」
多くの協力者に支えられて
子供たちが“やってみたいこと”を体験させる教育にチャレンジするなか、その時々に、不思議な巡り合わせで活動に賛同する人が現れた。いまでは協力者が入れ代わり立ち代わり教会に出入りし、さまざまな人の集いの場になりつつあるという。
未信仰の金谷道範さん(58歳)は、4月から「みんなの教室」のスタッフを務めている。金谷さんは少年院職員を退職後、幼児教育を支援しようと絵本屋を開業。昨年「みんなの教室」の活動を知ると、数多くの絵本を寄贈してきた。こうしたなか、子供のために尽くす髙部さんの姿に感銘を受け、スタッフとして自ら協力を申し出た。
金谷さんは「かねて、子供がのびのび成長するための手助けをしたいと思っていた。『みんなの教室』に来る子供たちは、皆いきいきしている。それも、子供のためにと一心に寄り添う髙部さんの存在があってこそだと思う」と話す。
髙部さんは「こうした活動ができるのは、教会長夫妻である両親をはじめ、家族や教会につながる信者さん、多くの協力者の支えのおかげ。感謝しても、しきれない」と語る。
5月には、スタイリストやメークアップアーティストなどの協力のもと、子供が主催するファッションショーを教会の敷地内で開催。当日は地域住民ら約250人が訪れるなど盛況を博した。
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現在、一般社団法人フリースクール等連合会で業務執行理事兼副会長を務めている髙部さん。今後、子供を支援する各地の人々の相談役などを担う。将来は日本だけでなく、世界中の子供たちに関わっていきたいとの夢を持っている。
「子供たちには、興味のあることや好きなことを経験し、得意なことを見つけて夢を抱いてほしい。そうすれば、自分で考えて行動するために必要な“生きる力”を伸ばしていけると思う。子供たちが自分らしく生きられる人に成長できるよう、これからも寄り添い続けたい」
文=加見理一
写真=根津朝也
コラム – フリースクール
不登校やひきこもりをはじめ、軽度の発達障害などがある子供を受け入れ、学習活動、教育相談、体験活動などを行う民間の教育機関。子供の居場所づくりや医療機関と連携してのサポートなど、それぞれの方針や教育理念によって活動内容は多種多様だが、子供たちの主体性を尊重した学習形態を有する点は共通している。地域の学校と連携し、フリースクールへの登校が、学校の出席扱いとされるケースも出てきている。現在、全国に400カ所余りのフリースクールが設置されている。