異形のトランプ政権再登場 – 手嶋龍一のグローバルアイ 42
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トランプ大統領は20日、超大国アメリカの政治指導者にして、全軍を率いる最高司令官に再び返り咲いた。そしてホワイトハウスに入るや連邦議会の承認が要らない50近い“大統領令”を次々と発令し、その強硬な姿勢は世界を震撼させている。
こうしたトランプ流政治の本質とは何なのだろうか。“MAGA”我らがアメリカを再び偉大にする。そのためなら自国の利益を剥き出しで追求する。「アメリカ・ファースト」の旗を高く掲げて、貿易戦争の最大のライバル、中国に重い関税をかけるだけでなく、隣国メキシコとカナダにも25%の関税障壁を設け、自国の産業を何としても守り抜く構えだ。同盟国日本とて例外ではありえない。日本製鉄によるUSスチールの買収を不当として対日経済制裁を発動する恐れすらある。まさしく異形の政権なのである。
第二次世界大戦の勝者にして冷戦の覇者、アメリカは衰弱してしまった。それゆえにトランプ大統領のような弱者の味方を産み出してしまった と指摘する識者がいる。だが、いまのアメリカは決して弱者などではない。世界最強の軍事力と基軸通貨ドルを二つながら独占し、莫大な利益を生み出すIT産業も数多く抱えている。トランプという政治リーダーは、錆びついたラストベルト地帯を選挙戦の主戦場に選び、失業の不安に怯えるプア・ホワイトにひたすら寄り添って支援を呼びかけた。鉄鋼の州ペンシルバニアや自動車の州ミシガンなどの“ブルーウォール”を民主党から奪い取ってホワイトハウスに入った。トランプ大統領は“経済的弱者の利害を代表する大統領”なのである。アメリカ全体を率いる為政者でもなく、西側同盟を束ねる政治リーダーでもない。地球温暖化対策を「グリーン詐欺」と糾弾し、「石油を掘って、掘って、掘りまくれ」と訴えている。そんな異形の大統領を恐れても、侮ってもいけない。いまこそ国際社会は結束し、未来の世代のためのリーダーへと何としても導いていく重い責務がある。