時報歌壇(8月31日号)- 植田珠實 選
鳥のうたラジオに流れウクライナの空につながるマンションの窓
呉市 月原光政
負け蛍金糸のやうに落ちてくるなれど合戦しづかにつづく
能登町 岩城康徳
物置に夫の杖が残りおり心のこして捨てがたかりし
福山市 藤井光子
魚だね鳥だねという泳ぎするペンギン達はみな名をつけられて
生駒市 馬場道恵
おさづけの手の温もりは今もなお遠い昔の父の姿を
玉野市 藤原良用
蛍とぶ麦畑のなか母に付き教会への道急ぎ歩みき
高槻市 石田たまの
少年らとはるか歩みし山の辺の道を往きたしマスク外して
伊勢原市 宇佐美正治
野の花がどうしてそんなに書くのかと書きたいからよ、花に答える
宇佐市 三好秋美
庭に生ふ蓬、どくだみ、みこし草干ししくすり湯自粛にも効く
東村山市 加藤八重子
瀬戸内の島に聳える教会の年祭祝う胡琴に鼓笛
福岡市 山口巳津夫
降りきたる鶏卵の如き大雹に神の思惑如何なるらん
東京都 小松孝
公募展滝のしぶきと音までも画面に描き暗き世照らす
川崎市 木村道治
釣人はおもう存分竿を振る梅雨晴れの朝鮎解禁す
熊野市 福山久美子
ほしいまま鳴きてとまらぬくま蝉の声は厳しき暑さ運び来
八尾市 伏田和子
いっせいの祭りの如く田植え終え凪の水面に映えわたる月
和歌山市 芥川伊都
選者詠
この家に寝息のひとつ増ゆる夜を
くちなしの香の闇のゆれゐる
【評】
月原さん・岩城さん
この平和な日本の空の向こうには、いまだ戦争が続く国が。この二首は鳥、蛍など自然の歌材との対比で、悲惨な戦が一層浮き上がりました。
藤井さん
杖を見るたび心は痛みます。でも捨てられません。
馬場さん
愉快なお歌です。視点がいいですね。
次回は、10月末までの到着分から選歌。投稿は短歌3首まで。お名前(ふりがな)、電話番号、住所を付記のうえ、下記までお送りください。
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