患者の心に寄り添う“ハートフル演奏会” – 「憩の家」白川分院
「Autumn concert」リポート
身体・精神疾患患者の長期療養施設「憩の家」白川分院(日村好宏分院長)では、コロナ禍が始まって以来、家族との面会を全面禁止にせざるを得ないという感染防止対策を続けている。こうしたなか、同分院は先ごろ「Autumn concert」と銘打った演奏会を初めて開催した。これは、「患者さんに少しでも元気を届けたい」と、同院在宅世話どりセンター医員の關匡彦さん(46歳)が企画したもの。ここでは、患者の心に寄り添うハートフルな演奏会の様子をリポートする。
「ワン、ツー、スリー!」
10月29日午後1時、白川分院A棟(長期療養・回復期リハビリテーション病棟)1階に設けられた臨時ステージ。ベースやトランペットなどさまざまな楽器を構えるのは、医師や看護師、リハビリテーション技師などの院内スタッフたち。ドラムの合図で演奏がスタートすると、美しく力強い音色が会場に響く。
この演奏の聴衆は、白川分院A棟とB棟(精神神経科病棟)の入院患者たち。ベッド臥床の患者や、車いすの患者も一様に音に耳を傾ける。
きっかけは一人の医師から
同分院は、本院の急性期診療を終え慢性期になった患者や、精神疾患に悩む患者に、長期療養を提供する施設として平成15年に開設。豊かな自然に囲まれた敷地内で、身体・精神疾患患者へのリハビリや治療が行われている。
一方、昨今のコロナ禍によって、家族との面会が禁止になるなど、患者の精神的負担も大きくなっていた。
今年5月、關さんを中心に、スタッフの間で「院内で患者さんに向けたコンサートを」という話が持ち上がった。早速、募集チラシを配って各部署の協力者を呼びかけたところ反応は上々で、19人の院内スタッフが奏者として参加してくれることに。その後、運営マニュアルの準備や演奏練習を皆で着々と進めてきた。
迎えた本番当日は、密を防ぐため、2部制で行われた。オープニングに続いて、老齢の患者になじみ深い昭和歌謡の『リンゴの唄』や『つぐない』など4曲を披露。聴衆も共に口ずさみ、懐かしい響きを楽しんだ。
奏者の一人で、白川分院看護部長の柏田真由さん(55歳)は「いつもと違った患者さんの笑顔や、喜びあふれる表情を見ることができ、看護師として感無量」と話す。
フィナーレは名曲『川の流れのように』。普段はそれぞれ違う部署で働くメンバーが心一つに紡ぐ音のハーモニーに、涙を流す患者の姿も見られた。
コンサートの開催を心待ちにしていたという70代の女性患者は、「素敵な生演奏に心が癒やされ、その夜は入院して初めて、一度も起きることなく、ぐっすりと眠ることができた」と笑顔で話した。
關さんは「音楽の力の素晴らしさを、あらためて実感した。これからも白川分院の仲間と協力し、心を込めた音楽で患者さんに寄り添う取り組みを続けていきたい」と語った。
文・写真=久保加津真