幸せへの四重奏 – 卒業シーズン2
元渕舞
ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者
ニューイングランド音楽院教授
いまアメリカは卒業シーズンだ。学校カラーのガウンを着て、仲間と写真を撮る姿を見るたびに心が弾む。昨年の卒業式はコロナのせいでほとんど中止になったが、今年はレッドソックスのスタジアムを借り切っての野外卒業式などもあり、ワクチンを接種した卒業生の家族らも集まっていた。
私が教授として卒業式に出席するのは、今年で21回目だ。自身の大学院の卒業式のときは、すでにボロメーオ弦楽四重奏団員としての仕事が始まっていたこともあって出席できなかった。そのため、しばらく学生気分が抜けず、人生の区切りをつけるために卒業式は大事なんだと痛感したものだ。
今年は週2回のPCR検査が義務づけられ、校舎内でも1時間ごとに部屋を入れ替えるなどしたために、校内感染者はゼロだった。
ある教授は「音楽家は小さいときから先生に言われた通り練習してきた子ばかりだから、ルールをちゃんと守り、ここまで感染をなくせたのだ」と言っていた。
以前から「会場で生の演奏を聴きたい」という音楽ファンの声を聞いていたが、演奏会へ行くチャンスが少しずつ戻ってきたいま、演奏家として、教育者としての目的をまた見いだしたように思う。
今月初め、私の生徒が所属する室内楽グループのレコーディングがあった。場所はニューイングランド音楽院が世界に誇るジョーダンホール。私自身も何百回と演奏したこのホールで自分の生徒が演奏している姿を見ると、なんとも言えない誇らしい気持ちになった。
聴衆は私だけ。音とは空気の振動だ。彼らの鳴らした音の波とホールの音響板が折り合って響きを創る。今年の練習の成果を残すため一生懸命に演奏する彼らの音を聴いて、これが“神々しい音”かと思った。そしてホールのパイプオルガンの上に座る天使たちが、なぜいつも微笑んでいるのかがよく分かった。
いままで私は、自分の創る音に集中してきたが、21年経ったいま、教え子が奏でる音に、こんなにも心が動かされることに驚いた。そして、彼らの創る音から教育者としての自分の将来が、はっきり見えたような気がして嬉しかった。