ルポルタージュ・ヒューマン – “高御位山の達人”こと長谷川英樹さん
76歳毎日“山歩”でご守護味わう
兵庫県加古川市と高砂市の境に位置する標高304㍍の低山「高御位山」。この山に毎日登り、山道の点検・整備を続けている長谷川英樹さん(76歳・志方分教会ようぼく・加古川市)は、加古川市と連携して登山者向けのガイドスタッフなども務めている。長年にわたり山道整備のひのきしんに勤しみ、多くの登山者の安全を見守ってきた“高御位山の達人”の思いとは――。
山道整備のひのきしんを続け「体を大切に使う喜び」伝えて
「今日も目が覚めて新たなスタートが切れる。有り難いなあ」
長谷川さんは毎朝、自宅で朝づとめを勤めて親神様・教祖に日々のご守護へのお礼と感謝を申し上げる。その後、すぐに作業着に着替えて山へ向かう。
“播磨富士”と称される高御位山。山頂から明石海峡大橋や淡路島などを見渡すことができ、その眺望の素晴らしさから多くの登山者が連日訪れる。さまざまな登山コースがあり、老若男女を問わず登りやすいハイキングエリアだ。
早朝の澄んだ空気のなか、長谷川さんは山道に欠損箇所がないか点検しながら歩く。登山者の多くが登頂に約1時間かかるところを40分で到着すると、山頂に設置されているバイオトイレが正常に稼働しているか点検し、清掃する。
これまで大病を患ったことはない。「私にとって、山を歩くと書く“山歩(さんぽ)”と歩荷が健康の秘訣。親神様からお借りしている体を大切に使わせていただくために、山に登っている」と。
健康への感謝の思いで
幼少のころは体が弱く、寝込みがちだった。父親と共に所属教会の月次祭に参拝した際、西村信一・志方分教会2代会長や夫人のまさゑさんからおさづけを取り次いでもらった。まさゑさんから「かしもの・かりものの教え」を説かれ、「体を大切に使わせていただくように」と仕込まれてきた。
その後、高校でマラソンを始め、走ることにのめり込んだ。就職してからも市民ランナーとして大会に出場。その間に、トレーニングの一環で自宅近くの高御位山に登るようになった。
「マラソンに取り組む中で、だんだん体が強くなり、寝込むこともなくなった。健康でいられることを実感し、その有り難さを人一倍味わってきた」
昭和60年、自治体によって高御位山の山道が整備され、階段が設置された。以来、多くの登山者が訪れるようになる。
こうしたなか、長谷川さんがトレーニングで山を訪れたある日、階段の崩れた部分を補修する高齢の登山者と出会った。ほかの人が歩きやすいようにと、自主的に山道を整備する姿を見て、「近くに住んでいる自分が何もしないわけにはいかない」と思い、その人に声をかけた。補修のために必要なセメントや砂などを登山口から現場まで運ぶ作業を手伝い、自身も整備を心掛けるようになった。
定年退職後も、体を大切に使わせていただこうと毎日山に登った。そして、健康への感謝の思いから、山道の点検・整備のひのきしんを本格的に始めた。そんななか、病気で肺の片方を摘出した人や、脳梗塞で1年間、車いす生活を送った人と出会った。身上者がリハビリを兼ねて懸命に山を登る姿を見たとき、幼いころ聞いた教えが頭をよぎった。
「この人たちに、体を大切に使う喜びを味わってもらいたい」
山道整備のひのきしんに取り組む勇み心が一層湧いてきた。
日に何度も山道を往復
山道の欠損や登山者の事故があると、すぐに必要な物資などを持って山を登る。補修箇所が多い場合は、約20㌔の荷物を担いで何度も往復することも。
ひのきしんに勤しむ中で、「滑り止めを作ってもらったおかげで登りやすくなった」という登山者の声を耳にするようになった。
こうした活動が一般に認知され、加古川市と連携して登山マップの作成に携わったほか、登山者向けのガイドスタッフも務めるように。いつしか“高御位山の達人”と称されるようになり、『神戸新聞』や市のホームページで取り上げられた。
◇
午後1時、この日4回目の山の点検に向かう長谷川さんは、シャベルの入った籠を背負って山道へ。目線を下げて階段を一つひとつ確認しながら、足取り軽く進んでいく。道中、脇の草むらに咲いているササユリを見つけると、イノシシに荒らされないよう垣を作った。
「ひのきしんができるのは、健康な体をご守護いただいているからこそ。高御位山を訪れた人たちが存分に体を動かせる喜びを感じ、山でのひと時を満喫できるよう、これからも体が動く限り、ひのきしんを続けていきたい」
文・動画=加見理一
写真=中野理弘
下記のURLから、長谷川さんが山道の点検・整備をする様子をご覧いただけます。
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