幸せへの四重奏 – 和音と心のつながり
元渕舞
ボロメーオ弦楽四重奏団ヴィオラ奏者
ニューイングランド音楽院教授
留学して間もないころ、レッスン中に先生が言った。「言葉が分からなくても音楽で通じ合えればいい。音楽が君の言語なんだよ」。その言葉を近ごろよく思い出す。
この夏、1年半ぶりに飛行機に乗り、ニューメキシコ州タオスの音楽祭で4週間、ヴァージニア州のハイフェッツ音楽祭で4週間、教鞭を執った。
世界中から集まった生徒たち。人種も言語も宗教も異なる中で、音楽を一緒に作る心は同じでなくてはならない。和音を作るとき、バランスを調整したり、音を少し高くしたり低くしたりすると音色が全く変わる。弦楽四重奏では、どのような音が欲しいのか、どういう感情が欲しいのか、グループの心を一つにしないと和音を奏でることはできない。
音は空中の音波によって出来ている。そして、1秒にいくつの音波があるかによってピッチが決まる。その音波をうまく調整すれば、響きは変わってくるのだ。音の高低によって響きの種類も違ってくる。自分たちにぴったりの響きを見つけるのはプロでも難しい。
私のレッスンは生徒への質問から始まる。私は、音がどこに向かっているのか、どういう感情が欲しいのかと生徒に質問する。そして、彼らの想像の世界において、この和音がどういう意味を持つのかを議論する。すると、生徒は質問に答えながら、自分の意見を言葉にするうちに、自分の意図がはっきりと見えてくるのだ。そして、楽器で表現してみて、思っていた音が出たかどうかをまた議論する。これは、いわゆる“自分探し”とも言えるだろう。
音楽は、人によって人のために書かれた。自分も音楽と向き合うことで、自分の意図や思考が見えてくる。そして、その思考や感情は日々変わってくる。だから和音も変わってくる。音楽は生きているのだ。
共に和音を作った仲間たちは、いつまでも心はつながっている。生徒たちが将来、人種も言語も宗教の違いも超えた“一つの世界”をつくってくれるよう願っている。